障害者就労支援A型 長崎県内で6事業所が閉鎖…収支による報酬引き下げ、最賃の上昇も影響
障害者が雇用契約を結んで働きながら技能を身に付ける「就労継続支援A型事業所」の閉鎖(廃止)が全国で相次ぎ、国が生産活動の収支の悪い事業所に支給する報酬(公費)を引き下げたことが大きな要因とされる。長崎県内でも今年3~8月に6事業所(利用者計47人)が閉鎖しているが、近年の最低賃金(最賃)の大幅上昇の影響などもあるようだ。 厚生労働省は2017年、事業所の経営健全化のため生産活動の収支のプラス分から利用者の賃金(最賃以上)総額を支払うよう規定。収支が悪い事業所には改善を促してきたが、今年2月にそうした事業所の報酬引き下げを発表し、4月から実施。一方、収支が良い事業所の報酬は引き上げており、同省は「健全経営で利用者にしっかり賃金を払ってもらうのが報酬改定の狙い」としている。 だが同省によると、全国で事業所の閉鎖が相次ぎ、3~7月に少なくとも4279人の障害者が解雇された。企業や他のA型に再就職したり、雇用契約を結ばずに働く「B型事業所」に移ったりしたほか、求職活動中の人などもいた。 6月に閉鎖した佐世保市の事業所はホテルの清掃などを担っていた。利用者1人の賃金は月7万~9万円。利用者は事業所と雇用契約を結ぶため、有給休暇を取ることができる。ただ、ホテルから働いた時間の最賃は支払われるが、「利用者の受け入れ企業を探すのも難しいのに、有休分の賃金までホテルに請求できない」(事業所)という。 有休分は事業所側が負担し、賃金総額を収支で賄えなかった。閉鎖に伴い7人の利用者は系列のB型に移った。通常、B型の工賃はA型の賃金より低いとされるが、ホテル清掃などの業務は継続して担っており、利用者が受け取る金額はあまり変わらないという。ただ雇用保険などはない。 事業所は「食堂や弁当店を経営したり大きな仕事を請け負ったりしないと、賃金総額を上回る利益を生み出せない。ただそれらも利用者の体調などを考慮すると難しい」としている。 県によると、他の事業所が閉鎖した要因として、上昇する最賃に見合う収入を今後も確保する困難さなどが挙げられるという。県内の最賃は今年10月までの4年間で160円引き上げられ、現在は953円。 一方、存続しているA型も経営は厳しい。NPO法人チャレンジド人財センター(諫早市)のA型は、3月まで3年間業務を受託していた観光施設の食堂・売店の収入が新型コロナの影響で悪化し、2年連続の赤字。7月に自前の食堂を島原市有明町に開業したが、職員からはB型への移行を求める声も上がるという。 同センターの石橋亙会長は「利用者の自立につなげるためA型で頑張りたい。だが最賃で生産性ばかりが求められると、利用者が一般就労できるよう訓練する時間が失われてしまう。即戦力の利用者がいる事業所だけが生き残り、他は淘汰(とうた)されてもいいのだろうか」と指摘した。 県内のA型事業所数は10月末時点で61(利用定員計1022人)。厚労省は今後、収支を黒字化するノウハウの収集・周知に向け、経営改善のモデル事業を実施するという。(堂下康一)