鳩山元首相クリミア訪問への批判を考える5つの論点
クリミア併合を認めたことに?
鳩山元首相によるクリミア訪問は、我が国でははなはだしく常軌を逸脱していると取られ、批判されましたが、重要なポイントを改めて整理してみましょう。 第1に、鳩山元首相は、ロシアの行動は本当に許されないものであったか、各国がロシアに制裁を課したのは妥当であったかを検証するためにクリミアを訪問しました。このような問題意識を持つこと自体はとくに非難されるべきことでありません。 第2に、しかし、検証するための方法は問題となるでしょう。ロシアのビザでクリミアに入国すれば、検証する前にロシアのクリミア併合を認めてしまうことになる恐れがあります。日本政府の指摘はもっともです。 第3に、個人で訪問しても実態は簡単にはわかりません。ロシアやクリミア側の説明を聞いただけでロシアの行動に問題はなかったと判断すべきではありません。何事についても、紛争当事者双方の言い分を聞く必要があります。 第4に、日本政府が行かないように要請しているのを無視することの是非も問われるでしょう。安倍内閣の決定を鳩山元首相が認めないのは自由ですが、だからと言って日本国、日本政府の立場を損なうことは問題です。日本の元首相としては、政治的に相いれない政権の下でも一定程度の自制は求められるはずです。 第5に、元首相の立場をさておき、一国民として考えても、外国では日本国の、かつ、日本と友好関係にある諸国の保護を受けており、それに応じて自らも問題を起こさないよう責任を負っているのではないでしょうか。 一般論ですが、外国では日本国内以上によく分からないことがあり、個人の行動も予想に反する結果となる恐れがあるので慎重さが求められます。鳩山元首相のクリミア訪問は、ロシアが評価した以外、各国に対して大して影響を及ぼしていないようですが、それはともかく、日本人として海外の行動には一定の自制が求められると思います。 (美根慶樹/平和外交研究所)
■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹