石破茂首相（2024年9月30日撮影）

　有権者が怒った。第50回衆院選は27日投開票され、自民党は改選前の256議席を大きく割り込み、単独過半数を割ることが確実になった。石破茂首相が目標とした、与党で定数456議席の過半数（233議席）確保も現状では見通せていない。派閥裏金事件に加え、選挙戦終盤に共産党機関誌に暴露された裏金非公認候補への2000万円支給が決定打になった。党執行部の責任論を問う声も出る可能性がある。立憲民主党や国民民主党は議席を大きく伸ばす見通しだ。 【わかりやすい】衆院の解散時勢力 　　◆　　◆　　◆ 　有権者が、「政治とカネ」問題を一向に反省しない自民党に、明確なNOを突きつけた。自民は公示前の256議席を割り込み、前回衆院選では実現した単独過半数を割り込むのが確実になった。石破首相が目標と掲げ、通常なら「緩すぎる」とされる与党で過半数の目標も、現状では微妙な見通しだ。 　すべては「自業自得」の結末だ。5度目の挑戦で総裁となり、首相として初めて衆院選に臨んだ石破首相は、9月の総裁選で言及した与野党論戦をすっ飛ばし、党幹部らの進言に沿って、早期解散に踏み切った。党に物言う姿勢が国民の共感を呼んできたが、自民党に取り込まれたような姿勢に、有権者の疑問符がついた。 　公示後、与党過半数割れを指摘する情勢調査も出始め、首相は、野党への対決姿勢を示す際、関係が良くなかった安倍晋三元首相が生前口にした「悪夢のような民主党政権」に言及。「安倍氏の発言まで持ち出すとは、そこまで心理的に追い込まれているのか」と、関係者を驚かせた。 　自民党関係者が「決定打になった」と認めるのが、裏金非公認候補への活動費2000万円支給だ。「しんぶん赤旗」の報道を受け、首相や党側は「非公認候補に出したものではない」と火消しに躍起になったが、候補者側に支給されたことに変わりはない。野党が指摘した「偽装＆ステルス公認」そのものだった。 　また、この問題は一般紙やテレビだけでなく、多くのメディアが報じ、ネットを通じて拡散した。SNSで「（非公認の）私にも2000万下さい」がトレンドワードになり、多くの有権者の怒りに火をつけたことが大きい。政界関係者は「首相や党の発言は釈明にすらならなかった」と、上から目線の開き直ったような反論を嘆いた。 　自民党内では、早期解散総選挙のシナリオを描いた1人とされる森山裕幹事長の責任を問う声も出る可能性がある。公明党も公示前の32議席を維持できるかは見通せず、自公連立政権も、今後大きな分岐点を迎える可能性がある。 　早期解散で「勝ち逃げ」をねらった石破首相の姑息（こそく）な手法は、相次ぐ「政治とカネ」に怒る有権者には通じなかった。今後、どうやって正々堂々と国民と向き合うのか。石破首相にとって5度目の挑戦でたどりついた悲願の総理の座は、就任から1カ月もたたないうちに早くも揺らぎ始めている。