〈インドはトランプが好き〉米国・インド関係黄金時代か、新政権を歓迎する本音とは
これらの部分は、トランプ政権時代と比較すると、歴然とした差があった。トランプ政権は、「予測できない」として、怖がられていたから、弱い政権だとは思われていなかった。 実際、トランプ氏は、習近平氏を夕食会に招き、チョコレートケーキを進めている最中に、シリアにミサイルを撃ち込むことを伝えた政権だ。「今はシリアだが、次はお前だ」と言わんばかりの脅しを、油断したタイミングでかけてくる点で、怖い政権だった。 しかも、トランプ大統領の外交は、イデオロギーを気にしなかった。最初の外国訪問はサウジアラビアだったし、東南アジアではベトナムを優先して訪問、友好関係を結んだ。サウジアラビアもベトナムも民主主義国ではない。利益になれば、イデオロギーは気にしないのである。そして、トランプ大統領はインドを重視しており、20年の大統領選挙前にトランプ大統領は、選挙活動で忙しい中でも、インドへ訪問した。 インドのような国では、まだまだ社会のルールが守られていないことがよくある。だから、ルールを守っているかどうかよりも、力が強くて、自分を守ってくれる人をリーダーに選ぶ傾向がある。 つい最近まで山賊が出るほどの国だったが、これは、自分を守ってくれるなら、政府ではなく山賊についていく人々がいることを示している。そのような国に、民主主義のルールとか、国際社会のルール、といったお小言を言って説得するのは、効果が弱い。バイデン政権は、まず力を示し、強い、と印象付ける必要があり、過去4年間、それに失敗し続けたのである。
激しい交渉の幕開け
だから、インドでは、バイデン政権よりもトランプ政権の方が人気だ。ただ、それで、米印関係が全く問題のない、黄金関係、ということにならないだろう。トランプ大統領の外交の特徴は、2国間ベースで、脅しをかけて取引を狙う。 安全保障問題であれば、北大西洋条約機構(NATO)加盟各国に「十分国防費を負担しないなら、ロシアに好きなようにするよう促す」といったかなり激しい脅し文句がくる。経済であれば、関税を大幅に上げてくる。インドだけ例外とは言えない。 さらに、トランプ政権第1期で問題になったのは、合法移民になるためのビザの発給数だ。それも再び交渉課題になるだろう。 トランプ政権としては、アメリカ人の雇用を守る観点から、優秀なインドからの合法移民があまり無制限に来ると、困るからである。イデオロギーなどが関係してこないシンプルな外交だとしても、米印間で激しいやり取りが起きることは必至だ。 インドではトランプ歓迎のムードが高まっている。それは同時に、新しい駆け引きと交渉の時代の幕開けと、いえよう。
長尾 賢