郷愁や趣味だけじゃない「茅葺き」再興を 長野でフォーラム
水辺のヨシが茂ると水質も向上
昨年9月にスウェーデンで開いた国際茅葺き協会(ITS)の総会に参加した日本茅葺き文化協会理事でかやぶき職人の塩澤実さんは、「スウェーデン、イギリス、ドイツ、デンマーク、オランダなどの国で、環境にやさしいカヤの栽培の奨励、かやぶき職人が保護してきた歴史的建造物などを知ることができた」と報告。 「イギリスではかやぶきの建物はビンテージの扱いで、投資の対象にもなっている。屋根材のヨシを扱う商社もある。オランダでは毎年3000棟のかやぶき住宅が建設され、ドイツではかやぶき職人に多くの注文があって予約でいっぱいだった」とし、海外の活発な動きをうかがわせました。 これについて、助言者の立場から日本茅葺き文化協会代表理事の安藤邦廣・筑波大名誉教授(工学博士)は、「オランダは低湿地にある国で、水辺の環境が悪化するととてもやっていけない。このため水を浄化する水辺の植物のヨシを屋根材に使うなどして循環させることで国土を守ってきたのです。自然を循環させるヨシの文化が育ってきた」と解説しました。 安藤代表理事によると日本のかやぶきの住宅などはかつて500万棟あったが、現在は10万棟まで激減しています。「かやぶきがなくなったことで水辺のヨシも活用しなくなり、それが原因で河川などの浄化作用が滞ってきた。水辺のヨシを利用し、ヨシが茂ることで野鳥の豊かな世界が広がり、水質も良くなる。自然環境の良い循環が保たれる。かやぶき屋根はその重要なきっかけになっている」と指摘します。
この日の報告では、「かやぶきに使うヨシなどのカヤは、家畜の飼料や肥料にも活用されてきた。集落では、共同で使うためのカヤを収穫する茅場(かやば)を管理し、カヤの保管倉庫も持っていた」など地域とカヤの関係も紹介されました。 実際に数年前から行政の支援も受けて茅場の設置やカヤの倉庫の建設を進めてきた地元の「戸隠中社・宝光社地区まちづくり協議会」は、まち並み保存や景観整備の狙いでかやぶきに挑戦しています。フォーラムの参加者も現地を視察。スキー場に設けた広い茅場と倉庫を目の当たりにして、かやぶきを目指す活動を実感していました。 戸隠ではかやぶき屋根のふき替え作業も見学。戸隠神社の参拝客らが泊まる宿坊の屋根を4年がかりでふき替えている現場で松澤さんの詳細な説明を聞き、職人が使う道具に触れてみる参加者も。若いかやぶき職人などは松澤さんに質問を繰り返していました。