<解説>「鬼滅の刃」 人間だった鬼の悲しき過去 炭治郎の優しさに触れた鬼たち
◇堕姫と妓夫太郎の壮絶な過去 「日本一慈しい鬼退治」のこの先は?
鬼の中でも、壮絶な過去が描かれたのが、「遊郭編」に登場した上弦の陸(ろく)の堕姫(だき)と妓夫太郎(ぎゅうたろう)の兄妹だ。遊郭の最下層で生まれた妓夫太郎は、周囲や親にすら疎まれ暮らしていたが、美しい容貌の妹・梅(堕姫の人間の頃の名前)が生まれてからは、自身のケンカの強さを武器に取り立ての仕事を始め、人生が好転し始める。しかし、梅は、客の侍の目玉をかんざしで突いて失明させ、その報復として縛り上げられ生きたまま焼かれてしまう。丸焦げになった梅を発見した妓夫太郎は絶望し、自分を殺そうとした侍を返り討ちにする。その後、上弦の弐の童磨(どうま、当時は上弦の陸)と出会い、鬼となった。
鬼殺隊との戦いに敗れ、首を斬られた後、互いに罵り合う堕姫と妓夫太郎に炭治郎は「本当はそんなこと思ってないよ。全部嘘だよ」「仲良くしよう。この世でたった二人の兄妹なんだから」と語りかける。鬼になってしまった妹を持つ炭治郎は、妓夫太郎と堕姫のことを他人事とは思えず、声を掛けずにはいられなかったのかもしれない。
「鬼滅の刃」の原作が連載中だった2017年、「日本一慈(やさ)しい鬼退治」というキャッチコピーが付けられたことがあった。それは、悲しい過去を持つ鬼たち、敵ながらもそんな鬼たちに情けを見せる炭治郎の優しさを表現したものだったのではないだろうか。5月からは、新作テレビアニメ「柱稽古編」がスタートし、無惨との戦いに備えた柱稽古が描かれる。今後、炭治郎たちは、強大な鬼たちと対峙することになるだろう。どのような鬼と人間のドラマが待っているのか、注目したい。