春風亭一之輔、“キャバクラの運動会”に誘われる 「最後は男女混合のドッジボール」
落語家・春風亭一之輔さんが連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今回のお題は「運動会」。 【写真】元気すぎるキャラ?笑点を卒業した落語家といえば… 中二の娘の学校の運動会が近い。「なんか面白い種目ある?」と聞いたら「そんなものはない」とつれない返事。たしかに運動会の練習ほど、かったるいものはなかった。入場行進の練習なんてその極み。 「ぜんたーい、進めーっ! 止まれ! まわれー、右っ! 気をつけっ! そこ何やってんだーっ! 全員が揃うまでやるからなーっ!」 体育の時間、まるまる行進。なんでだよ? 炎天下に埃まみれ。貧血で倒れたり、休み時間になると水を求めて校庭の水道にダッシュしたり、埃だらけのままその後の授業を受けたりしてたっけ。頭を払うと砂が教科書の上にパラパラパラと落っこちてきて、爪の間は土だらけ。なんのためにあんな事やらされていたのだろう。 最後に運動会に出たのはいつだったか。 高校の三年次だったかな。高校なのに「体育祭」ではなく「大運動会」だった。うちの学校は県立の男子校でその頃はまだバンカラな校風が残っていた。「体育祭? 『祭』じゃないんだよ! 『 戦い』なんだよ!」ということで、「体育祭」と呼称せず「大運動会」。なら「運動戦(うんどういくさ)」でいいじゃねえかと思うが「大運動会」だった。 クラス対抗で得点を競う。100メートル走、ハードル、走り幅跳び、走り高跳び……など、種目はほぼ陸上競技。クラスの中でその競技に長けた者(陸上部以外)が代表で出場する本気の大会だ。騎馬戦もあったかな。お揃いのTシャツで入場行進したり、応援合戦があったり、最終的に肩組んで歌ったり。そんなかんじ。
自分がなんの競技に出たのかも覚えてないや。出たのかな。出たはずだ。そういうのに背を向けてズル休みするような気概もないハンパ野郎なのだ、私は。ただただ記憶からは抜け落ちている。 運動会はやっぱりパン食い競走、飴食い競走、ムカデ競走、借り物競走、大縄跳び……なんて牧歌的な種目が並んでるほうがホッとする。昔はよく町内や社内での運動会があって、こんなのんびりした競技を老若男女で楽しんでいたっけな。そんな運動会も今はなくなってしまった。 落語家になってから「運動会に参加しませんか?」と誘われたことがある。20年近く前から、年に一、二回のペースで呼んでもらっていて、今でも何年かに一度顔を出している某町の落語会。その打ち上げの二次会で使っていたキャバクラの運動会によかったら来ないか? と誘われた。 ママ「来週の日曜日、運動会なんだけどよかったら一之輔さんもどうですか?」 私「急だなぁ、来週は無理ですよ。運動会ってどこのです?」 ママ「うちの店の!」 私「店?」 ママ「うちの女の子とお客さんで年一で運動会やってるんです。近所の小学校の校庭借りてね、朝から夕方まで! 楽しいですよ!」 キャバクラの、お客とキャストが、運動会。なんかいかがわしい五七五の響き。 ママ「違うんです! 本気でやるんですよ! 走ったり、跳んだり!」 私「本気? お店のファン感謝デー的なヤツじゃないんですか?」 ママ「違う違う! 100メートル走、ハードル、幅跳び、高跳び……」 私「陸上競技大会じゃないですか!」 ママ「そうですよ。運動会って呼んでるけど、正直言ってこれは戦いです」