「5年間実験を繰り返している」ドイツ代表はスターのアンサンブルを夢見ている場合ではない【現地発】
2023年の国際Aマッチで11戦6敗
2023年のドイツ代表は散々だった。カタール・ワールドカップからの巻き返しを誓ったはずだが、やる試合、やる試合で負けてしまう。消化試合数が増えたところで、積み上げが感じられない。11試合で6敗(3勝2分け)。無失点試合は3月のペルー戦だけ(2-0で勝利)。 【動画】完敗に終わったオーストリア戦のハイライト ハンジ・フリック解任後に、ルディ・フェラーが暫定で指揮を取り、フランスに2-1で勝利した9月の試合はなんだったのか。10月の米国遠征でアメリカを3-1で破り、メキシコと2-2で引き分けた経験はどこにいったのか。 「選手はいるが……」 フリックも、ナーゲルスマンもそうしたニュアンスの言葉を残した。一方で、「選手のメンタリティが、心構えが、感情移入が」という嘆き節も口にする。 だれの目にも明らかな最重要テーマは守備の安定で、真新しい問題でもない。かれこれ5年以上、ずっと付きまとっている。他国がプレー精度をどんどん高めているのに、ドイツは5年間ずっと実験を繰り返し続けているようなものだ。監督はそのことを否定するが。 ドイツのテレビ局『ARD』リポーターのブルクハルト・フーペは0-2で完敗したオーストリア戦後に、次のように指摘していた。 「5年間を無駄にした。いや、2014年の段階でサイドバックがいないというのは明確だった。結局、サイドバックの適任者がひとりも出てきていない。ヨズア・キミッヒを除いて。だが、キミッヒはサイドバックとして見られていない」 14年のブラジル・ワールドカップでは当初ボランチで起用されていたフィリップ・ラームを右サイドバックに戻し、左サイドバックには本来CBのベネディクト・ヘーベデスが順応したことが優勝という結果につながった。だが、それ以降は……。 サイドバックだけではなくボランチは? インサイドハーフは? サイドハーフは? いまのメンバー構成が本当に最適なのか?
役割を果たせる選手は必ずいる
いわゆる“バイエルンブロック”が代表チームの鍵になるというのがドイツにおける不文律だったが、ここ数年バイエルンのDFラインにドイツ人選手はほとんどいない。 ドルトムントにはマッツ・フンメルスとニコラス・ジューレがいるが、ニコ・シュロッターベック、マルクス・ヴォルフ、エムレ・ジャンの3人はナーゲルスマンの構想外に近い。 現在、ブンデスリーガの首位を走るレバークーゼンの守備陣を見ても、ヨナタン・ターとロベルト・アンドリヒの2人以外は外国人選手で固められている。 もっとも、ドイツ守備陣のタレント不足はクラブの責任ではない。トップクラブのレギュラーだけで構成されている代表チームの方が少ないのだ。11月の代表シリーズで対戦したトルコにしても、オーストリアにしてもそうだ。そこに人材難の答を求めるのはよくない。 たとえば、オーストリアの左サイドバック、フィリップ・ムウェネはマインツ所属。ブンデスリーガ16位のクラブで今季、4試合にしか出場していない29歳だ。ドイツ戦で1ゴールを決めたマルセル・ザビツァーはドルトムントで、クリストフ・バウムガルトナーはライプツィヒで不動のレギュラーではない。だが、代表ではそれぞれ重要な働きを見せている。 チャンピオンズリーグ出場クラブに所属していなくとも、しっかりと見渡せば、やるべき役割を果たせる選手はドイツにも必ずいるのだ。候補者を羅列してみよう。 ホッフェンハイム:MFアントン・シュタッハ(25歳)、デニス・ガイガー(25歳) フランクフルト:DFロビン・コッホ(27歳) フライブルク:MFニコラス・へフラー(33歳)、マキシミリアン・エッゲシュタイン(27歳)、ヤニク・カイテル(23歳)、メルリン・レール(21歳)、DFマティアス・ギンター(29歳) ボルシアMG:MFユリアン・ヴァイグル(28歳)、ロッコ・ライツ(21歳) アウクスブルク:MFニクラス・ドルシュ(25歳)、アルネ・マイアー(24歳) ヴォルフスブルク:MFリドル・バク(25歳)、DFモーリッツ・イェンツ(24歳) ブレーメン:DFニクラス・シュタルク(28歳)、アモス・ピーパー(25歳) ウニオン・ベルリン:MFヤニク・ハベラー(29歳)、ラニ・ケディラ(29歳)、ロビン・クノヘ(31歳) シュツットガルト:MFアタカン・カラゾル(27歳)、アンゲロ・シュティラー(22歳)、DFヴァルデマール・アントン(27歳)、ヨシャ・ヴァグノマン(今月11日で23歳) なかでもリーグで上位につけるシュツットガルトのアントン、カラゾル、シュティラー、フランクフルトのコッホ、フライブルクのへフラー、ギンター、エッゲシュタイン、ボルシアMGのヴァイグルは、チームのために力を発揮できる選手たちではないだろうか。 ナーゲルスマンはオーストリア戦後、「才能ある選手のことを話してきたが、その割合を変えることが必要かもしれない。1、2人のタレントを外して、その代わりにハードワークができる選手を入れる。そうしなければならないかもしれない」と話していた。 スター選手のアンサンブルを夢見ている場合ではない。 取材・文●中野吉之伴