話題のSNS『Bluesky』はXの引っ越し先になり得るのか ITジャーナリストに聞いた
元X(旧Twitter)社のCEOのジャック・ドーシー氏が立ち上げに携わったSNS・Bluesky。(2023年1月にiOSとAndroid向けのアプリとして配信され、2024年2月6日に招待コード無しでも登録が可能になった。Blueskyの期待値は高く、2月中旬ではユーザー数500万人を突破。 【画像】ネクストXを探せ、Z世代が選んだ「トレンド寸前!次世代SNS TOP10」ランキング これほどユーザー数を伸ばした背景として、Xのアップデートが軒並み世間にハマらなかったことが挙げられる。2023年7月から「クリエイター広告収益分配プログラム」が開始され、投稿のインプレッション数によって収益を得られるようになった。そのため、バズった投稿や有名人の投稿に、内容のないリプライを送り、インプレッション数を稼ぐ“インプレゾンビ”が大量発生。 気になった投稿が見にくくなったことに加え、露骨なお金稼ぎが常に目についてしまうため、 BlueskyをXの引っ越し先と考えている人は多い。果たして、BlueskyはXの代わりになり得るのだろうか。『親が知らない子どものスマホ イマドキ中高生 驚きのSNS&ネット事情』(日経BP)の著者でITジャーナリストの鈴木朋子氏に話を聞いた。 ・Xを含む“中央集権型SNS”とBlueskyが目指す“分散型SNS”の違い ――BlueskyはどのようなSNSなのか教えてください。 鈴木朋子氏(以下、鈴木):ドーシー氏が立ち上げに携わっている通り、全体的にはXと似ています。ただ、ドーシー氏は「Twitterについての最大の後悔はTwitterが企業になったこと。プロトコルにしたかった」とXで話していました。要するに「Xは中央集権型SNSだったけど、Blueskyは分散型SNSを実現したい」と考えています。 ――まず中央集権型SNSとはどういったSNSなのでしょうか? 鈴木:Xをはじめ、InstagramやFacebookなど主要のSNSは中央集権型SNSです。具体的に中央集権型SNSでは、ユーザーの個人情報や投稿内容などを含む様々な情報を1つのサーバーで運営会社が管理しています。中央集権型SNSは個人情報などをユーザーが管理する必要がなかったり、運営会社が明確ですのでトラブル対応を依頼しやすかったりなど、メリットは少なくありません。 ―― 一方、Blueskyが目指す分散型SNSとは? 鈴木:分散型SNSではユーザーが用意した独自のサーバーで管理します。たとえば、中央集権型SNSでは「個人情報などをユーザーが管理する必要がない」というメリットを伝えましたが、1つの運営会社でしか個人情報が管理できないことはデメリットにもなってしまう。分散型SNSであればユーザーが作成した複数のサーバーを行き来でき、個人情報を一カ所で管理される心配はありません。 ――分散型SNSのメリットは少なくなさそうですね。 鈴木:基本的には中央集権型SNSのデメリットがメリットになります。中央集権型SNSでは運営会社が1つですので、運営会社が「この投稿はヘイトだ!」と決めつければ、その投稿を削除せざるを得ません。場合によってはアカウント停止になる可能性もあり、言論の自由を奪われかねません。 ――分散型SNSのメリット、というよりは中央集権型SNSのデメリットは意外と大きい……。 鈴木:はい。Xは中央集権型だからこそ、クリエイター広告収益分配プログラムのような多くのユーザーのニーズを無視したサービスを急に始めることができます。Xを使い続けたいのであれば、X社が考えを変えない限りはインプレゾンビと共存するしか道はありません。一方、分散型SNSであればサーバーを移動すれば良く、インプレゾンビを見かけることはなくなります。 ――分散型SNSであるBlueskyに期待したくなります。ただ、話を聞く限り「サーバーを移動する」など煩雑な印象があり、現状は気軽に使いにくそうです……。 鈴木:そこは大きな懸念点です。Blueskyと同じ分散型SNS・Mastodonも一時は注目されましたが、多くのユーザーを獲得したとは言い難い。 ――とはいえ、これまでにないユーザー体験を提供できればBlueskyはXの引っ越し先になるのでは? 鈴木:Blueskyは先日開発者向けに分散型SNSならではの機能を公開したばかりなので、新たなユーザー体験は期待したいところですね。現状では、Xと似たような機能しか備わっていません。Xで言うところのタイムライン“フィード”のカスタマイズは、Xよりも優れています。ユーザー数こそ増えていますが、Xをはじめとした各種SNSと大きく差別化できているとは言えない現状です。 ――このままですと、広まらない可能性もありそうですね……。 鈴木:自分好みにカスタマイズできるため、やはりテクノロジーに詳しい人にとっては楽しめるSNSになるかもしれません。しかし、一般ユーザーからすればハードルが高いSNSと認識されてしまうと、「使いづらいけどXでいいや」と思われる可能性は高いです。 ・ThreadsがXの代わりに慣れなかった理由は“ユーザー層の違い” ――他のサービスの例で言うと、Meta社のThreadsは出始めは盛り上がりを見せたものの、徐々に話題にならなくなってしまった印象です。ThreadsはなぜXの代わりになれなかったのですか? 鈴木:Threadsは2023年7月6日に使用開始となったのですが、当初予定していた予告よりも15時間ほど前倒しで開始しました。本来の狙いはわかりませんが、「話題性を作る」という意味では上手い戦略だったと思います。ただ、いざ利用してみるとキーワード検索やハッシュタグ機能が使えないことが発覚。前倒しにより最小限の機能でのスタートになったため、がっかりしたユーザーも多かったように感じました。 ――出足に躓いてしまい、いまもなお尾を引いていると。 鈴木:また、Threadsを利用するためにはInstagramのアカウントが必要になります。Xのヘビーユーザーは男性が多く、女性と比較すると、Instagramのアカウントを持っていない人も多い。新たにアカウントを作成することがハードルになり、「Xでいいや」と思った人は少なくありません。さらには、いざThreadsを利用しても、ユーザーはInstagramに慣れ親しんだ女性ユーザーばかり。政治経済やアニメなど、Xで議論されやすいトピックはあまり見られず、結局は居心地の悪さを感じてXに出戻りした人も結構います。 ――そもそも、ユーザー層が異なるため、“ThreadsはXの代わり”になることは最初からなかった可能性が高いと。 鈴木:そうかもしれません。ただ、Threadsも着々と地盤を築いています。普段は写真でInstagramを楽しみながらも、テキストでも楽しむために“サブ”としてThreadsを使っているユーザーは多いです。ThreadsはThreadsで独自の路線を順調に歩んでいます。 ・インプレゾンビとの共存は続く その背景には“有料ユーザー優遇”が ――結局のところ、Xがユーザーの意見と乖離したアップデートをやめれば、良いようにも感じます。そのアップデートにより生まれたインプレゾンビですが、Xはなぜそのインプレゾンビ対策をしないのですか? 鈴木:恐らく今後も行わないと考えます。 クリエイター広告収益分配プログラムを利用するためには、月額980円~の有料プランに登録する必要があります。Xとしてはお金を払ってくれるユーザーを大切にしたい。むしろお金を払っていないユーザーをインプレゾンビから守る理由がありません。 ――とはいえ、インプレゾンビに嫌気がさしてXからユーザーが大量流出する事態も想定されますが。 鈴木:その辺も特に気にしていないと考えます。X社のイーロン・マスク氏はXを“スーパーアプリ”にしていこうと考えています。 スーパーアプリは中国のテンセント社が作成したWeChatが有名ですが、特定の人たちとの交流に加え、オンラインショッピングやタクシーの予約など、生活に関わる様々なやり取りに対応できるアプリです。 ――現在、Xで主流になっている他者との交流は“あくまでサービスの1つ”と認識している……。 鈴木:はい。数あるサービスの1つとしてしか、ユーザー間のコミュニケーションは考えていないと思います。そのサービスでユーザーが不満を言ったところで、大胆な改善に踏み切るとは考えにくいです。 ――しばらくはインプレゾンビと付き合う流れになりそうですね。 鈴木:Blueskyは自由度が高く、可能性を秘めたSNSです。SNSの勢力図は多少変わると思いますが、Xを追い越すことは難しいかもしれません。それでも、Blueskyも存在感を今後発揮すると予想しています。
望月悠木