今季トップチーム初スタメンの左SBが3得点に絡むハイパフォーマンス!流通経済大柏DF渡邊和之が全国の舞台で証明した努力の価値
[1.4 選手権準々決勝 流通経済大柏高 8-0 上田西高 フクアリ] とうとう巡ってきたスタメンのチャンス。もう準備は十分すぎるほどに整っている。ここまで溜め込んできたエネルギーを、地道なトレーニングで身に付けてきた技術を、そして、最後の選手権に懸ける想いを、すべて出し尽くして、この全国のピッチで暴れ回ってやる。 【写真】「美しすぎ」「めっちゃ可愛い」柴崎岳の妻・真野恵里菜さんがプライベートショット披露 「スタメンでも緊張感はあまりなくて、逆にワクワクの方が大きかったですね。もう試合に出たくてウズウズしていたので、ようやくここで結果を出せて良かったなと思います」。 選手権の全国準々決勝で今シーズンのトップチーム公式戦初スタメンを飾った、流通経済大柏高(千葉)のウルトラレフティ。DF渡邊和之(3年=FC多摩ジュニアユース出身)が待ちに待った晴れ舞台で、鮮やかに躍動してみせた。 プレミアリーグ王者の大津高(熊本)との激闘を制した3回戦から中1日。準々決勝の上田西高(長野)戦に臨む流経大柏の最終ラインは、前の試合から1人だけが変更があった。シーズン後半戦から左サイドバックの定位置を掴んだDF宮里晄太朗(3年)の代わりに、スタメンリストには渡邊の名前が書き込まれる。 やる気はみなぎっていた。2回戦の佐賀東高(佐賀)戦はベンチにこそ入ったものの、 出場機会は訪れず、大津戦に至ってはメンバー外。ある意味で抜擢とも言っていいスタメン起用に、渡邊は試合前から胸の高鳴りを抑え切れなかった。 キックのフィーリングも上々。任されていたプレースキックも、悪くないボールが蹴れている。すると、落ち着いてゲームに入った渡邊の左足が、試合の均衡を打ち破る。 13分。左サイドで前を向くと、一瞬でイメージは共有された。「山野はこの大会でずっとインパクトを残していますし、スピードがある選手で、自信を持って走ってくれることはわかっていたので、『あそこに出せば抜けるな』とは思っていました」。 渡邊が丁寧に相手のディフェンスラインの背後にボールを送ると、抜け出したFW山野春太(3年)はそのままゴールを陥れる。「あそこで良いプレーができたので、一気に肩の荷が下りたかなという感じはありました」。いきなりアシストという形で結果を出せたことが、とにかくメチャメチャ嬉しかった。 最高学年になった今季は、飛躍の年になるはずだった。1年生からプレミアリーグの登録メンバーに名を連ねると、2年生に進級した昨シーズンはリーグ戦でも14試合に出場。左サイドバックの定位置を確保し、得意の左足を生かして印象的なプレーを続けていた。 だが、今年に入ると、左サイドバックには攻撃により強みを持つFW堀川由幹(3年)が起用されるようになり、渡邊の名前はメンバーリストから消えていく。「ポジションもサイドハーフに変わったりしたんですけど、自分の型になかなかハマらなくて、そこでも結果があまり出せなかったですね」。 10月に入ってようやくプレミアで初出場を果たしたものの、選手権予選が始まる直前に今度は足首の捻挫に見舞われて戦線離脱。運にも見放される格好で、なかなか思うような時間を過ごせない日々が続く。 だが、指揮官はちゃんとわかっていた。「少し宮里が足に張りがある感じだということで、渡邊はここまでずっと頑張ってきて、ずっと気持ちも切らさずにやってきていて、『どこかで使えるチャンスがあるんじゃないかな』と思っていたので、今日がその時かなと思いました」。この日のスタメン起用の理由を、榎本雅大監督はそう明かす。 「やっぱりメンタルの部分が一番難しくて、下級生のころは試合に出ていたのに、3年になって出れないというところで、正直落ち込んだんですけど、逆にそこで一番成長できたというか、その挫折があったからこそ、メンタル面も成長できたのかなという捉え方を今はしています」。諦めなかった。必ず自分が必要とされる日が来ると信じて、日常の努力を怠らなかった。その先でとうとう手にした今季初スタメン。やらない理由なんて、あるはずがない。 37分。左サイドでMF亀田歩夢(3年)からパスを受けると、すぐさま中央を窺う。「相手の平均身長が低いのは昨日から共有していて、『クロスからの得点が大事だ』という話もあったので、それは自分の特徴ですし、それを出せば絶対に点が入ると思っていました」。渡邊の正確なクロスを、ファーでFW粕谷悠(3年)が折り返し、ここも山野が頭でゴールへ押し込む。 後半28分。右サイドのコーナーエリアへ向かっていく時から、狙いはハッキリしていた。「相手のキーパーの身長もそんなに大きくなかったので、全体的にニアで合わせようというチームの狙いがありました」。渡邊がニアに蹴り込んだCKを、DF奈須琉世(3年)がヘディングでゴールネットへ叩き込む。 試合は8-0で大勝。「渡邊は落ち着いていましたね。やっぱり準備の差というか、彼は非常に大人なので、いつ出しても準備ができているという答えを、ここで出したんじゃないかなと思います」。2アシストを含む3得点に絡んだ左サイドバックに対して、指揮官も賛辞を惜しまない。渡邊がコツコツと積み重ねてきた努力は、何より自分自身を裏切らなかったということだろう。 高校生活で残されているのは、最大でもあと2試合。最後の最後でその実力を解き放ちつつあるからこそ、自分自身を見つめ直す。苦しんできたからこそ、今がある。悩んできたからこそ、今がある。最後まで自分にできることを、100パーセントでやり切ってやる。 「今年が一番伸び悩んできて、苦しい時期も過ごしてきましたけど、今日の結果が偶然ではなくて、必然になるように、今日のパフォーマンスが基準になるように、次はゴールも奪っていけるようにやっていきたいです。もうここでしか全国優勝はできないので、そこに対する想いは本当に強いです」。 もう準備は十分すぎるほどに整っている。3年生も最後の最後のタイミングで、いつもの練習グラウンドで培ってきた実力を披露してみせた、流経大柏のウルトラレフティ。一度勢いに乗ってしまった渡邊和之の左足は、国立競技場でも猛威を振るうに違いない。 (取材・文 土屋雅史)