おふくろの味、営業再開を断念 七尾の総菜店「じゃ~ま」 高校生に愛され35年、店舗に「危険」赤紙
●蠏さん「精いっぱいやってきた」 能登半島地震で店舗が損壊したJR七尾駅近くの人気総菜店「じゃ~ま」が営業再開を断念した。1人で店を切り盛りした蠏(かに)早苗さん(73)=七尾市万行町=の「おふくろの味」が七尾高生や近隣住民に親しまれたが、建物に「危険」を示す赤い紙が貼られ、食器なども被害に遭ったことから決断。常連からの惜しむ声に「精いっぱいやってきた」と目に涙を浮かべ、35年の歴史に幕を下ろした。 珠洲市出身の蠏さんが七尾市南藤橋町に総菜店を構えたのは1989年3月。七尾高近くの線路沿いに立地し、家庭で忙しい「奥さん」の代わりに食卓を彩りたいと、能登の方言で奥さんを意味する「じゃ~ま」を店名にした。 素材にこだわり、手間暇掛けた味は常連客が行列をつくるほど愛されてきた。作り置きしないように店を開けない日祝日以外は午前3時には調理場に立ち、定番の唐揚げ、ポテトサラダのほか、日替わりで20種類ほどの総菜を並べた。中でも人気を集めたのはボリューム満点の500円の弁当。蠏さんの明るく温和な人柄を慕って電車通学の七尾高生らが集まり、店内の奥にある部屋はたまり場になっていた。 地震で自宅に大きな被害はなかったが、店が入る建物が解体されることになった。七尾高OBや常連客が「場所を移して再開業してほしい」と寄付集めを提案したが、蠏さんは「あと10歳若ければ頑張ったかもしれない。体力の限界かな」と固辞。3日までにガラスが割れた入り口を掃除し、店内でちらばった調理道具を片付けた。 常連客からは「おいしかったのに残念や」と惜しむ声が多く、蠏さんを結婚式に招待したという七尾高出身の市職員関軒賢太郎さん(48)は「地震が憎い。あの味が食べられなくなるのが悲しい」と話した。蠏さんは「35年間、一生懸命やってきた。おいしいかったという声に励まされた」と感謝を口にした。