喫茶店で脚に感じた異変、父の作った弁当の話……飾らぬエッセーは健在 室井滋さん
「ゆうべのヒミツ」室井滋さん
女優業の傍ら、等身大の目線でエッセーを綴(つづ)り、執筆は30年を超す。「ありがたいことです。なぜ皆さん面白いと言ってくださるのかは、わからないんですよ」。あっけらかんと笑う。
週刊誌や夕刊紙に書き続けているエッセーから、2021年分以降のものを自身で選び、一冊にまとめた。喫茶店で足に感じた異変の正体や、「オバサン」の強み、父の作ったお弁当の話……。日々の出来事や古里・富山の思い出、小さな事件などをすくい取って記し、共感を誘う。
「落ち込んでいる自分がばかばかしくなったとか、お便りをいただきます。中には『女性だったんですね』なんて人まで」。話しぶりには作品同様、ユーモアがあふれている。
子供の頃から作文が好きで、地元で賞をもらったこともある。父は作家も目指していたといい、自宅には本がぎっしりあった。
小学校高学年で両親が離婚し、父からは「本と映画と芝居にはいくら使っても良い」と、ノートを渡された。映画や芝居の半券を貼り、作品の感想を書くよう言われた。「書いてノートを渡すと、その分の小遣いを惜しみなく出してくれた」と振り返る。女優業への情熱、執筆の基礎体力が培われた時期だろう。
伝わりやすく、飾らない書き方を続けてきた。「私は女優なので、書くときに頭の中で1回、映像にして考えているんです。実際にあった、体験したことを臨場感やカメラワークなどを重視して、文章にしています。優美にはしなくても、的確な描写で、読者の頭の中に届けたい」
昨春、富山県の「高志の国文学館」の館長に就任した。多くの文学作品を読んできたが、館長として「もっと勉強したい」という言葉を連発した。謹厳実直な一面ものぞかせる。(小学館、1540円)(高梨しのぶ)