社説:認知症の基本計画 京滋も当事者中心に立案を
認知症になっても希望を持って暮らしていく―「新しい認知症観」が大きく掲げられた。 今後の認知症施策の指針となる基本計画を政府が閣議決定した。今年1月施行の認知症基本法に基づき初めて策定された。 計画をまとめる政府の会議には認知症の人らが参画した。当事者を「支える対象」とのみ見なすのでなく、対話し、その経験に学び、共に政策を立案する先例としたことを評価したい。 基本計画を踏まえ、これから京都府や滋賀県など全国の自治体で地域の実情に応じた計画づくりが始まる。認知症当事者も委員になってもらい、「何もできない人」「介護される人」といった思い込みを取り払って、一緒に作り上げてほしい。 政府会議で委員を務めた認知症当事者の藤田和子さんは「予防は大事なのだけれど、認知症にならないにはどうしたらいいか、そういう議論ばかりを展開させて国民に示していくのは間違いだと思うのです」と発言した。恐れるのではなく「誰が認知症になっても暮らしていける社会」への変革を投げかけた。 京都は、草分けの全国組織「認知症の人と家族の会」が本部を置き、20年近く前に「本人会議」が発足するなど、当事者中心の運動を先導してきた。 基本計画では重点目標に「本人の意思尊重」を据える。安心して暮らせる環境作りに向け、当事者同士で悩みを話し合うピアサポート活動などを一層広め、社会参加や就労などへの支援体制を拡充したい。 認知症の高齢者は2022年の443万人から、40年に584万人に増えると見込まれる。若年性の発症を含めた支える仕組みの見直しは急務である。 同会は先週、外出したまま行方不明の人が多いとして、警察庁と厚生労働省に、捜索態勢の全国統一対応や若年性認知症にも対策を広げるよう緊急要望した。戻る場所を見つけられなくなった人の気持ち、帰らない家族を待つ人の心情は痛ましい。 外出の抑制ではなく、安全な環境と社会での見守りの再構築を急がねばならない。 意思決定への支援を巡っては、今の成年後見制度では本人の自己決定が必要以上に制限される例があり、法制審議会に見直しが諮問されている。安全や保護を目指す制度が、本人の思いに反する権利侵害につながらないよう、幅広い視点からの点検が欠かせない。 不足が著しい介護職の待遇改善や育成、多様な介護家族への支援といった行政施策も一段と踏み込むべきだ。 国は、場当たりな介護保険の負担増や給付削減で現場を振り回すことを慎んでもらいたい。 「徘徊(はいかい)」といった表現は、認知症の人が無目的に行動していると誤解を与えるとの指摘もある。新しい認知症観をさらに磨き上げ、社会で共有したい。