静岡リニア「開業10年遅れ」JR東海の経営大丈夫?突然辞任した川勝知事の「置き土産」が及ぼす影響
■「開業10年遅れ」が生む懸念 しかし、長期的には話が違ってくる。リニアが開業すれば工事費用の減価償却が始まる。品川―名古屋間だけで約7兆円の工事費がかかる。車両や橋梁など固定資産の種類によって償却期間はさまざまだが、仮に全額をトンネルの税務上の耐用年数である60年で定額償却すれば毎年1166億円の減価償却費が発生する。そのため、リニア開業前の利益水準を下回る可能性がある。その後は名古屋開業後に連続して行われる名古屋―新大阪間の工事費用の減価償却が控えている。これらの点はリニアの事業計画に織り込み済みだが、想定外の事態としては開業が10年遅れると、総額3兆円の財政投融資の返済時期と重なってしまう。
返済期限は2055年から2056年にかけて。JR東海は「10年程度かけて返済する」としており、2046年頃から返済を始める計画だ。本来のスケジュールであれば2046年とは大阪開業から9年経ち、経営が安定している時期である。しかし、開業が10年以上遅れた場合、開業直前の資金需要が増える時期と財政投融資の返済時期が重なる可能性がある。この点についてJR東海に問い合わせると、「返済額は金融機関からの借り換えなどで対応し、健全経営と安定配当を堅持する」と回答した。
さらに怖いのは、東京―名古屋―大阪という日本の大動脈輸送の二重系化の完成が遅れることだ。リニアが完成しないことには東海道新幹線は長期間にわたる部分運休を伴う大規模な改修工事は難しいし、リニアの完成前に大規模な大災害が発生して東海道新幹線が寸断されれば、JR東海の収入は激減する。最悪の場合、それが借り換え計画に影響を及ぼす可能性するある。JR東海としては、川勝知事の「手柄」であるリニア開業10年遅れの間に巨大災害が起きないことを祈るばかりであろう。
大坂 直樹 :東洋経済 記者