道長の「この世をば」、まひろ目線のカット話題 「光る君へ」神回のマジック再び
とりわけ注目を浴びたのは、道長が歌を詠んだのちまひろに視線を送るシーン。この回の演出は、まひろと道長が廃邸で結ばれた第10回の黛りんたろう。名エピソードとして語り継がれる第10回では廃邸の抜け落ちた天井から月の雫が降り注ぐ演出が注目を浴びていたが、第44回ではそれを思わせる演出がなされ、無音の中でまひろから観た道長が光輝いて見えるという描写だった。目を潤ませたまひろと、唯一まひろにだけ笑顔を見せた道長が「まひろちゃん惚れ過ぎじゃないか?」「これはどういう気持ちなのー?」と視聴者の想像を掻き立てていた。
望月の歌について、ドラマの時代考証を担当する倉本一宏は公式サイトのコラムで「「望月の歌」は「本宮の儀」(立后の儀の一つ)のあとに行われた「穏座」という二次会で詠まれました。出席者がかなり酩酊してから詠んでいますので、道長自身も気分が良くなって、かなりできあがってきた状態で、喜びの気持ちやその場の光景を歌にしたのだと思います」といい、偶然が重なった結果、奇跡的に残っていることに「道長に対する「天皇をないがしろにした傲慢な人」という悪評は、この歌の解釈によってなされたという側面もあります。平安時代に対する理解にも悪影響があったと思いますし、果たして残って良かったのかは、私としては疑問に思います」とも語っている。
また、道長が望月の歌を詠んだ時の衣服は「直衣布袴(のうしほうこ)」というもので、佐多は「選ばれし者でなければ気後れしてしまう、極めて特別な格好です。まず、平安貴族の中でも公卿以上の人物が自邸で威儀を正す際に身にまとう格好として、「布袴」という姿があります。布袴は、朝廷に出仕する際の正式な服装である束帯姿から、はく物を表袴(うえのはかま)ではなく指貫(さしぬき)に変えた格好であり、冠をかぶり、上着は袍(ほう)を着て、下襲(したがさね)を付けて裾(きょ)の長さで職を示すという感じです。そのうえで「直衣布袴」は、上着は袍ではなく直衣とした姿になるのですが、これは貴族たちにとって、威儀を正したうえで最もカジュアルにした最上級の格好となります」と説明している。(石川友里恵)