福呼び込む絵看板に 三重・松阪のスーパー「魚梅」 絵本作家・服部さん描く
修理中の壁に期間限定で 塾講師がきっかけ、35年来の交流
「災い転じて福となす」──。三重県松阪市曽原町の個人スーパー「シーフードマート魚梅」の幅約6メートル、高さ約4メートルのシャッターが破損し、養生のために覆ったベニヤ板に、鈴鹿市出身の絵本作家・服部美法さん(55)がかわいらしい鬼や猫などのキャラクターを描き、利用客や通りを行き交う人の心を和ませている。絵が見られるのは、シャッターが修理されるまでの2週間~1カ月程度の期間だという。 服部さんは現在名古屋市在住で、小学校教諭から絵本作家に転身した。鬼と、ふくよかな笑顔が特徴的なキャラクター・おふくさんたちの交流を描いた「おふくさん」シリーズ(大日本図書)などの絵本を手掛けている。 「シーフードマート魚梅」のシャッターは、14日に車を駐車しようとした女性が運転操作を誤ってぶつかり、破損した。店内にいた同店経営の大村真一郎さん(71)にけがはなく、運転の女性はけがを負った。シャッターは元々3枚あったが、うち2枚が壊れ、ベニヤ板で養生して営業を続けている。 この事態を知った服部さんが、絵を描くことを提案した。大村さんも「閉まっていると勘違いされる人もいてどうしようと思っていた」と振り返った。 大村さんは以前、店鋪の2階部分で学習塾を経営しており、服部さんが国立三重大学の学生だった頃にアルバイトで子供たちに勉強を教えていた縁がある。以来35年余り、絵本作家として活躍する服部さんが新作の絵本を贈るなどの交流を続けている。 くしくも、15日に服部さんの新作「おふくさんのきもだめし」が発売されたばかりで、そのテーマが「災い転じて福となす」だった。暑いから何とかしてくれと言ってきた鬼に、おふくさんたちがさまざまな工夫を凝らして、鬼を涼しくさせようとする話で、服部さんは「(テーマに)ぴったり」と思ったという。 服部さんは実家に帰省中だった19日に店舗を訪れ、午前中から描き始めた。アクリル絵の具を使い、入り口の方向を示す鬼やおふくさんを描き、大きく営業中の文字を入れた。さらに、鬼とおふくさんの間にコロンコロンと転んで立ち上がる猫の絵も描き入れ、「災い転じて福となす」のメッセージも添えた。 服部さんは「できることはこんなことくらい。近所の人たちも寄ってくれて『楽しみにしているわ』と声を掛けてくれました」と笑顔で話した。 大村さんは「描いてくれると聞いてびっくりしたけれど、とてもありがたかった。こんなにすらすら描くのはすごい。シャッターも早く直したいけれど、絵がなくなるのはもったいないなぁ」と語った。