尾上右近「カレー」と「歌舞伎」をつなぐ仕事観 年間360食「無類のカレー好き」で独自の存在感
例えば、女形でも、日常の人間らしさみたいなものをそのまま持ち込む人もいるし、”女形”という別の生き物に完全に変身する人もいる。アプローチの仕方は人それぞれ。 だから取り繕ったところで、僕はやっぱり”こぼれてしまう”タイプだと思う。『さっきカレー食べたんだろうな』って見えてしまうし、それでいいと思っています。 でも、これだけは絶対ミスできないぞというときの緊張感は、誰にも負けないというのはほしい。めちゃくちゃ緊張感も持っているけど、同じくらい隙もある、みたいな」
■「根を張りたくない。根無し草万歳」 後輩たちには「ケンケン」と愛称で呼ばれているという右近さんだが、「普段は『ケンケン、これどうしたらいいですか』って気軽に相談に来てくれるけど、出番の直前には『右近さん』とすら呼べない感じ」が理想だという。 「親近感と遠い存在、どちらも必要だと思うんです。あまり遠い存在になり過ぎても、絶対セリフを間違えられないし。絶対にミスできないなんて、嫌なんで。もうちょっと楽にやりたい。
親しみやすいと思ってたら、なんで急に気を遣わせてるんだ、どっちだよ? わかりづらいよ! みたいなのがいい。周りには気を遣わせたいですね、困らせたい(笑)」 そう冗談まじりに話しつつも、根底にあるのは「人として面白い人間でありたい」ということだという。 「僕らの稼業って、真剣に長年やっていると人間国宝とかになれるじゃないですか。 でも、歌舞伎俳優国宝ではなく『人間国宝』、つまり人としての国の宝。役者である前に、人としてのことで評価されている。『芸は人なり』だと思うんです。
歌舞伎のプロフェッショナルになる前に、ある程度まともで、面白い人であるべきだと思うので、人としての部分にこだわりはあるかもしれない」 それは、歌舞伎俳優と清元という二刀流として舞台に立ち続けるがゆえの、右近さんの仕事観にもつながっている。 「清元をやらせてもらっているのもそうですが、いろんなことをやって、『こういうカテゴリーの人』という括りになりたくないというのはありますね。 根を張りたくない。根無し草万歳、みたいな。