皮ごとOKの赤いブドウが今夏デビュー 開発に15年、産地が期待
シャインマスカットを超える人気が期待されるブドウが、本格デビューする。赤色で皮ごと食べられる大粒の「サンシャインレッド」。日本一のブドウ産地・山梨県が15年かけて開発した。 【写真】雨を避けるための不織布のカサがかかっているサンシャインレッド。地面には不織布シートを敷いて、太陽光を反射させている=山梨県果樹試験場提供 2020年度に始まった農家への苗木供給が順調に進み、今夏に出荷が本格化。県内でのブドウの柱の一つになることが期待されている。 「完成に15年かかりました。その間に6人の研究員が携わりました」。21年春から開発に携わってきた県果樹試験場の小林正幸研究員(38)は、7人目の研究員。感慨もひとしおだ。 開発が始まったのは、すでにシャインマスカットが人気だった07年。「シャインに負けない甘さで、皮ごと食べられる赤色の県産ブドウをつくってほしい」という声が上がっていた。皮ごと食べられる大粒の赤いブドウがなかったからだ。 赤い粒「サニードルチェ」とシャインマスカットを初めてかけあわせた。サニードルチェの赤い見た目が反映され、一筋の光が見えた。 開発の場は甲府盆地を望む斜面にある山梨市の県果樹試験場。標高450メートルで水はけと日当たりが良く、果樹栽培の適地だ。新品種への挑戦が始まると、複数のブドウを交配させ、毎年100~150個体ほどが果実を実らせる。 一つ一つ分析機器で糖度や酸味をチェックし、自ら食べてみる。「まずいものも多いです」と苦笑するが、そこはプロ。収穫時期には1日30~40個体の味を確かめる。 鮮やかな赤さを保つため、太陽光にも気を使った。工夫したのが「カサ」だ。ブドウには雨を避け、病気を防ぐために「カサ」をかける。 当初試した透明なものは太陽光を吸収しすぎることもあり、たどりついたのが不織布。さらに「太陽光を反射させてみよう」。かぶせるのに加え、地面に不織布シートを敷いてみると、絶妙な反射具合で思い描く色づきになった。 15年ごろ、ゴーサインが出た。味や見た目に加えて安定して育つかもカギだが、当時の開発担当者が、天候に左右されずに実を付けることを確認できたためだ。19年に県のオリジナル品種として出願。品種登録されたのを22年1月に知り、ほっとしたという。 思わぬ副産物もあった。香りだ。サニードルチェは青リンゴ、シャインマスカットはマスカットの香り。二つを交配させると、なぜか花のような香りがするブドウができた。これもサンシャインレッドの最大の特徴となり、「ブドウ畑にいるのに花畑にいるような香り。うれしい偶然でした」。 今は、サンシャインレッドと別の品種を交配させ、皮ごと食べられる黒色ブドウを作るべく奮闘中。「赤いサンシャインレッドに黒いブドウが加われば、目を引くことは間違いなし」。日本一のブドウ産地・山梨の挑戦は続く。(棟形祐水) ◇ サンシャインレッドは2022年に品種登録された。「日照時間日本一の山梨で、太陽のエネルギーをふんだんに浴びた赤い粒」というのが名前の由来だ。山梨県が開発した五つ目の生食用ブドウで、県内でしか生産できない、まさに山梨印のブドウだ。
朝日新聞社