新幹線内は全撤去! それでも街の「喫煙ルーム」が増加している理由
■喫煙所を増やすことで非喫煙者との共存を 2020年に改正健康増進法が施行されてから、受動喫煙対策にまつわるルールは厳しくなった。特に屋内型喫煙所の設置ハードルは高く、たばこの煙が室内から流出しないように壁や天井でスペースを仕切るだけでなく、たばこの煙が十分に排気されるようにも定められている。 換気のために最新の空気清浄機や空調設備の設置も必要になるのだ。それら設備投資と工事費用に高額のコストがかかる。排気ダクトの有無など設置場所の条件によって、「500万円から2000万円」(山下氏)と幅はあるものの、かなりの負担であるのは間違いないだろう。 「設置後もランニングコストとして清掃の人件費、水道光熱費などが必要です。喫煙所の設置は『灰皿を置いて終わり』では済まないのです」(山下氏) こうした費用の問題があることから、自治体は喫煙所の必要性を認識しながらも、なかなか新設に踏み切れない。そのため近年進んでいるのが、民間企業に対して喫煙所設置の補助金交付を行なう動きだ。 実際、先ほど例に挙げた鎌倉市では、この補助金制度を活用することで民間企業の協力を募った。そこに名乗りを上げたのが、まさに喫煙所をテーマにビジネスを展開しているコソドだったのである。 代表の山下氏が続ける。 「弊社は19年から喫煙所の企画・運営に特化した事業を行なっており、鎌倉市の以前にも東京や大阪などで喫煙所を運営していました。自治体の補助金を活用したケースも含めると、すでに全国の約60ヵ所で自社ブランドの喫煙所を運営しています」 同社が運営する喫煙所は「THE TOBACCO」というブランド名の下、従来のやや閉鎖的なイメージがある喫煙所とは異なり、カフェのようなモダンな空間づくりを特徴としている。 「愛煙家にとって快適な空間にすることで、彼らに喫煙所まで足を運ぶ動機をつくる狙いがあります。それが路上喫煙やポイ捨ての防止に最も効果的だと考えているのです」 同社には自治体や企業からの相談が年々増加しており、今年中には運営する喫煙所の数が100ヵ所に達する見込みだという。 ただ、ここでひとつ疑問が浮かぶ。正直、喫煙所の運営って儲かるんですか? 「ものすごく儲かるとは言えません(苦笑)。補助金だけで利益が出るわけではなく、喫煙所内のサイネージ広告や企業のサンプリングなどが主な収益源です。そうした収益化の活動が難しい自治体が喫煙所を運営するのは、確かに厳しいと思います」 では、なぜ今の事業を? 「身近な社会課題の解決に貢献するビジネスをしたかったんです。その中でもたばこは賛否両論あるテーマであり、大手が進出しにくい領域です。だからこそ、僕らが挑戦する意義はある。 喫煙者の数に対して喫煙所が少ない現状で、『喫煙は迷惑だからやめるべきだ』というだけでは、路上喫煙もポイ捨てもなくなりません。理想的な喫煙所のあり方を考え、実際に造っていくことは、少し大げさに言えば"社会の多様性"を実現することにつながっていくと思っています」 喫煙所を増やしていくことは喫煙者と非喫煙者の共存を考えていく上でも、とても重要なことなのだ。 取材・文/小山田裕哉