祇園祭りはショーではないのか…「40万→15万円に大値引き」訪日客向け観覧席巡り宮司がキレた割引以外の矛先
■酒も弁当も販売する大相撲は「神事」であり「興行」でもある 他方で、祇園祭のプレミアム席の設置自体は問題かといえば、必ずしもそうではないと思う。 近年は祇園祭を支える地元、山鉾町の人口が激減していた。祇園祭が開催される地域は昔から繊維産業が盛んであった。しかし、バブル崩壊以降、繊維産業は大きく衰退し、店舗は軒並み撤退した。祭りの担い手である住み込みの奉公人らが、この地を去っていったのだ。 近年は人口流動の不安定さに加え、観光客の増加などによる警備費・保険料などの金銭的負担が増えてきていた。祇園祭ではクラウドファンディングによる資金調達を実施していたほどだ。 プレミアム観覧席の売り上げは、祭りの保全と継承に使われるという。それが「神様に失礼」かどうか、はさておき、財源確保のアイデアとしてはアリだと思う。15万円もの料金を設定しておいて「ソフトドリンクだけ」というのは、少しお粗末だろう。客が、祭りや他の客の妨害をするようなことのないような規定と運用をすればよいだけの話ではないか。 その上で、祭りは「ショー(興行)」かといえば、「宗教儀式であり、ショーでもある」というのが私の考えだ。例えば大相撲は「神事」でもあるし、「興行」でもある。神事だけでは大相撲は維持されてこなかっただろうし、むしろショー化したことで、大衆が楽しめるスポーツになった。なお、国技館では酒も弁当も販売している。 祇園祭は八坂神社境内での儀式においては、厳粛を貫くことはもちろんのことである。だが、公道を使った山鉾や神輿の巡行などは、むしろ、うまく興行化していかねばならないのではないか。興行化というのは、きちんとルールを決めて、老若男女、観光客も地元民も共に楽しめる時間と空間を演出することである。 今回の問題の根源は「酒」にあるのではなく、祭事と興行の折り合いをつけられなかった観光協会と、八坂神社との関係性にあるのだろう。祇園祭の機会を活かし、ぜひとも神様が喜ぶ「京都での、雅な酒の飲み方」を世界に発信してもらいたいものだと思う。 ---------- 鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり) 浄土宗僧侶/ジャーナリスト 1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』(文春新書)近著に『仏教の大東亜戦争』(文春新書)、『お寺の日本地図 名刹古刹でめぐる47都道府県』(文春新書)。浄土宗正覚寺住職、大正大学招聘教授、佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事、(公財)全日本仏教会広報委員など。 ----------
浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳