<頂点へ再び・22年センバツ敦賀気比>/上 30戦ぶり敗戦で覚醒 /福井
敦賀気比は昨年9月23日、秋季県大会準決勝で啓新に1―6で敗れた。2019年春以来、県大会では約2年間負けなしだった敦賀気比にとって30戦ぶりに味わう苦渋。会場の県営球場(福井市)を後にするバスの中で、選手らは敗戦に打ちのめされていた。「俺たちやっぱり弱かったんだ」――。 準決勝では全く打てないわけではなかった。啓新の11安打に対して敦賀気比は10安打。走者を幾度も三塁まで進めたが、後が続かなかった。攻めあぐねるうちに追加点を許し、そのまま敗れた。 一夜明けた24日。同校のグラウンドには基本的な打撃練習や実戦形式の練習に取り組む選手らの姿があった。いつもと変わらないメニューだったが、大きく変わったものがあった。練習に取り組む意識だ。 石原幹太選手(2年)はキャッチボールで、ただ漫然と捕球するのではなく、鋭く踏み込み、試合の時のようにスピーディーに返球動作に移すよう心がけた。河合陽一選手(2年)は前日に「あと一本」を打てなかったのを反省し、「試合で勝つための一打を頭の中でイメージし、打撃練習などで一球一球入念に打ち込んだ」。 選手たちの意識を大きく変えたのは、前夜に学校の寮で開かれたミーティングでの主戦投手の上加世田頼希主将(2年)の一言だった。「まだ甲子園行きのチャンスはある。切り替えて3位決定戦で勝ち、北信越(地区大会)に行こう」。正捕手として日ごろからチーム全体を見渡している渡辺優斗選手(2年)は「翌日の練習では目の色が変わっていた。『次は負けられない』と皆が必死になった」と振り返った。 そして迎えた25日、運命の3位決定戦。対戦相手の丹生の1年生エースは今大会好調。鋭くコースを突く投球を攻めあぐね、序盤は2―3とリードを許した。 しかし、この日の敦賀気比は準決勝とは違った。1点を追う七回、濵野孝教選手(1年)が相手のミスで出塁すると、2番の河合選手はこの機を逃さず送りバントを成功させ、リズムを作る。3番の春山陽登選手(2年)も安打でつなぎ、打席には4番の上加世田主将。「自分がなんとかする」。強い気持ちでバットを振り抜くと打球は犠飛となり、ついに同点に。勢いに乗り、続く石原選手も中前適時打を放ち逆転。終盤にも打点を記録し、この日5打点と大活躍した石原選手は「低く速いライナー性の打球を狙い、練習で培ってきた次の打者につなぐ意識が結果に結びついた」と語った。強豪の復活を予感させる一戦だった。 ◇ ◇ 昨夏の甲子園でベスト8の好成績を収めた先輩に続き、2年連続9回目のセンバツ出場を決めた敦賀気比。県大会準決勝で敗れ北信越地区大会出場も危ぶまれた彼らが、しぶとく食らいついて勝つ“気比魂”で春切符を獲得するまでの歩みを追った。【大原翔】