「昼間から一升瓶を抱えて…」すさみきった「伝説の踊り子」を「ふつうの板前」が救えた理由
のちの夫との出会い
初日の舞台を終えて楽屋に戻ると、捜査員がたばこを吸いながら待っていた。 「おい、迎えに来たぞ」 「わざわざ迎えに来んでええがな。今日が初日やんか」 地方では一条が舞台に出ると、他の劇場に客が入らない。商売にならない劇場から警察に、「取り締まらないのか」と抗議の電話が入り、警察としても何もしないわけにはいかなくなっていた。一条は高知で罰金5万円、68年1月には岡山で罰金2万5000円の刑を受けている。彼女が逮捕されたのは、63年7月からの4年半で計6回になった。 道後での温泉芸者時代、一条は一人の男性と出会った。その後、内縁の夫となる板前の吉田三郎である。 38(昭和十3)年、大阪に生まれた彼は、一条の1つ年下である。12人兄弟の9番目。父も職人で家はいつも貧しかった。吉田は中学を卒業すると、首都圏や四国、九州で修業をし、奥道後の一品料理屋で働いているとき、一条と会った。 当時の彼女について、彼は週刊誌の自伝風読み物で、こう述べている。 「生活はすさみ切っていた。昼間から1升ビンを抱えてコップ酒」 追いかけていった男性に逃げられた一条は、しばしばやけ酒をあおった。このとき、2人はまだ深い関係になっていない。
関係を深めていく二人
2年後に吉田が大阪に移り、天満の東洋ショー劇場近くの寿司屋で板前をしていたとき、彼女がストリップ仲間と一緒にこの店に入ってきて、「あら、お兄さんじゃないの」と声を掛けた。一条はこの劇場に出演していた。 彼女は吉田が調理師用の白衣を着ているのを見て、衣類を扱う卸業者について尋ねた。『愛染かつら』で夫を亡くした子持ちの看護師「高石かつ枝」役を演じるため、白衣を買おうと思っていたのだ。吉田は看護師用の白衣については知らなかったが、このやりとりをきっかけに2人は関係を深めていく。 付き合いはじめたころの印象について吉田はこう振り返る。 「意固地でわがままで、他人の気持ちを考えない一本気な人だと思った。一方、私のことをとても思ってくれた。やさしくいたわってくれた」 男と女の関係になった後も、吉田は一条が舞台に上がることを許した。 「そりゃあ、好きな女を人前にさらしたくないですよ。でも、私には甲斐性もなかったし」 『陰部露出で人気を博した「伝説のストリッパー」が全共闘に「反権力の象徴」として祭り上げられたワケ』へ続く
小倉 孝保(ノンフィクション作家)