あれから約10年、ソマリアで見た「笑顔なき市場」
内戦の続いていたソマリアの首都モガディシュは、戦闘や爆弾テロのみならず、外国人の誘拐が頻発するので、撮影取材が特に難しい町だった。ツテをたどって、僕が記者と共に滞在できたのがわずか4日間。移動するときもトラックに乗った武装護衛グループをつけていかなくてはならないので、街の様子を撮るのも一苦労だ。 常に密告者や過激派の目を気にしなくてはならず、一つの場所にとどまれるのが15分ほどだから思うように仕事ができない。足早に町を歩いていると、路上市場に出くわした。芋や玉ねぎなどの野菜が地面に広げられているが、種類も少なく、その量も微々たるものだ。こんな時勢だから食料を含めた物資も不足しがちなのだろう。 写真を撮っていると、近くにいた兵士がやってきて忠告した。 「あまり長くいない方がいい」 カメラを向けると顔を隠したり、逃げていく女性たちもいたりする。もともとイスラム教の保守的な国の上、過激派「アル・シャバブ」の台頭によって、街中の空気はピリピリと張り詰めていた。他のアフリカ諸国であれば、面白がって声をかけてくるか、逆に「写真撮るなら金払え!」と怒鳴られるのが普通なのだが、ここではただ一瞥されるだけ。冷たい空気が漂う。「何処の馬の骨ともわからん外国人とは関わるな」ということなのだろう。 笑顔どころか、感情なき市場の光景だった。 (2007年10月撮影・文:高橋邦典) ※この記事はフォトジャーナル<世界の市場の風景>- 高橋邦典 第53回」の一部を抜粋したものです。