給料日に“全額”オンラインカジノに…「後戻りする道などない」ギャンブル依存症の男性が“会社の金”に手をつけたワケ
給料日に全額がオンラインカジノへ……
2020年10月、新型コロナウイルス感染症の拡大に、世界が右往左往していた。セイタにとっては、未曽有のウイルス禍よりも、東京五輪の1年延期よりも、目前に迫っていた消費者金融への返済、そしてクレジットカードへの支払いのほうが、はるかに切迫した問題だった。 この月は25日が日曜日に当たり、23日の金曜日には給料が自分の銀行口座に振り込まれたが、その日のうちに、全額がスマホのオンラインカジノにのみ込まれてしまった。 預金口座の残高はほぼゼロで、財布に残った数枚の1000円札が全財産だった。消費者金融もクレジットカードも限度額いっぱいまでの借り入れがあり、これ以上の現金調達は絶望的だった。このままでは、週明け後の仕事も満足にできない。 どうするか。 選択肢は3つ。「家族・知人から借金する」「自分の首をつる」、そして、もっとも安直でラクそうな「金を盗む」だった。具体的には、会社の金の「横領」だ。 ちょっとした悪知恵(アイデア)があった。 セイタが勤務する都内の中堅セキュリティー関連企業には、成果を上げた社員に対して、会社から現金が支払われるインセンティブ(報奨金)制度がある。新規契約の獲得などで、報奨金を受け取った社員は、その一部を自分が所属する部に還元し、歓送迎会費用などの足しにする慣習があった。部署の出納管理は、同僚の女性社員が担当している。 会社の金に比べれば、格段にガードが甘い。「無断借用」しても、短期間のうちに戻しておけば、誰にも気づかれない。 大丈夫。その金を盗み(パクリ)、オンラインカジノで増やせばいい……。
会社の金に手をつけ、早朝の喫茶店で「カジノ」
週明けの月曜日、セイタは一睡もせずに、ガラガラに空いた始発電車に乗り込んだ。 まだ薄暗い都心のオフィスビルに着くと、誰かに鉢合わせするのではないかと、バクバクと心臓が暴れ出す。無理やり自分を落ち着かせ、社員証で無人のオフィスのロックを解除し、部費を管理している女性社員のデスクに直行した。引き出しを探ったら、すぐに見覚えがある小さなポーチが目に飛び込んできた。 これだ! なかには9万円強が入っていた。少しためらいながら2万円だけを抜き取り、元の場所にポーチを戻すと、急ぎ足でオフィスを出た。最寄りのコンビニで、盗んだ全額を自分のオンラインカジノ口座に入金し、早朝営業している喫茶店に飛び込んだ。注文したコーヒーも待ちきれず、スマホでオンラインカジノにアクセスすると、「バカラ」を始めた。 2万円は、あっけなく消えてなくなった。もう、自分には、後戻りする道などない。すぐにオフィスに引き返し、女性社員のデスクから、今度は残りの7万円すべてをつかみ出した。コンビニ、喫茶店と同じコースをたどり、最後のバカラを始めた。「負けたら……」などとは考えなかった。考える余裕さえ失っていた――。 (第2回に続く)
染谷一