次にバトンを繋ぐのは君だ! 『数分間のエールを』に学ぶ“初期衝動”との向き合い方
『数分間のエールを』が私たちに繋いだ“モノづくりのバトン”
先述した4人の登場人物たちの魅力についても触れておきたい。主人公・彼方は、「いつか自分が作ったMVで誰かの心を動かしたい!」という熱い思いを持つも、周りが見えず、自分のためだけのモノづくりになってしまう弱点に向き合うことになる。 対して、彼方の中学時代からの友人である大輔は、何事にも冷静で彼方とは正反対な性格をしている。ストーリーが展開していくにつれて、自分の絵の才能を評価されてきた大輔が「この才能は誰が認めたものなのか?」と、努力を“才能”と片付けられてしまうことに葛藤していたことが明らかになる。 彼方の初期衝動のきっかけとなった夕の存在も忘れてはいけない。彼女は、音楽活動に励むも世間的な評価に繋がらず、音楽の道を一度断念……そして、教師として新たな道を歩み始めたという立ち位置。否定される恐怖を知ってもなお、表現者として歌い続ける夕の姿には胸を打たれた。そして、登場シーンは少なめだが、彼方にとって重要な“気付き”を提供するクラスメイトの萠美のセリフも物語の重要な鍵となっているため注目だ。 『数分間のエールを』は、“初期衝動”との上手な付き合い方を教えてくれる。彼方にとってそれは「MV制作」であり、夕にとっては一度挫折した「歌」だった。それぞれが異なる方法で自身の初期衝動と向き合っている。2人が共に作り上げたMVが多くの人々の心を動かしたように、映画を観た私たちにもこの“モノづくりのバトン”が渡されたのだ。 参照 ※ https://yell-movie2024.com/
佐藤アーシャマリア