ジェシー・アイゼンバーグが自身の初監督作への想いを赤裸々に語る「監督も俳優も続けていきたい」
個性派俳優として知られるジェシー・アイゼンバーグが初めて監督、脚本を務めた『僕らの世界が交わるまで』(公開中)。本作は、社会活動に勤しむ母とネット配信に夢中な息子の関係をユーモアを交えて描いた珠玉のヒューマンドラマ。数々の映画祭で上映され、監督としても高い評価を獲得したアイゼンバーグが、本作でのキャストとのやり取りや作品に込めた想い、今後の展望について語ってくれた。 【写真を見る】本作のプレミアイベントでシャイな表情をみせるジェシー・アイゼンバーグ監督 DV被害女性のためのシェルターを運営するエヴリン(ジュリアン・ムーア)と、ライブ配信で2万人のフォロワーを持つ高校生ジギー(フィン・ウルフハード)。社会奉仕にすべてを捧げてきた母と、フォロワーのことしか頭にない息子は互いの価値観を理解できずに暮らしていた。そんな2人の前にそれぞれが理想とする人物が現れる…。 ■「自分と折り合いをつけられないキャラクターは、僕がいちばん好きなキャラクターですから」 『ゾンビランド』(09)でアイゼンバーグと共演したエマ・ストーンの製作会社フルート・ツリーが製作し、ヒューマンドラマからホラーまで優れたインディーズ作品を手掛けているA24が配給を担当。サンダンス映画祭でのプレミア上映に続きカンヌ国際映画祭では批評家週間のオープニングを飾り話題を呼んだ。 本作はアイゼンバーグがAmazonのオーディオブックAudible用に執筆した「When You Finish Saving The World」の映画化。ある家族の30年間にわたる物語で、その中の1パートの映画化である。原作はアイゼンバーグが書いた舞台の台本を膨らませたものだった。「もともと自分の1人芝居用の台本で、生まれたばかりの赤ん坊とつながりを感じられずにいる父親のお話でした。芝居を終えたあと、その15年後の子どもの視点で親や自分の周囲の世界を描いたらおもしろいんじゃないかと思いはじめたんです。それで音楽のライブ配信をしている15歳の少年ジギーの台本を書きました。そしたら今度はお母さんの物語も書きたくなって、18歳のエヴリンが大学で政治に目覚める物語を書いたんです。すると今度は彼女のその後の話が書きたくなり、自分が大嫌いな資本主義に染まった息子に向き合う50歳のジギーの物語を書いて、ひとつにまとめたのが『When You Finish Saving The World』です」と振り返り、書き終えた段階で映画化への意欲はあったという。 シェルター運営に全力を注ぐエヴリンと、世界中にフォロワーがいるジギー。どちらも自分のことでいっぱいで、周囲からちょっと浮いた存在だ。どこか子どもっぽいところを含め、アイゼンバーグが演じてきたキャラクターにも重なる。本作のキャラクター像について問うと、「自分と折り合いをつけられないキャラクターは、僕がいちばん好きなキャラクターですから」という答が返ってきた。「エヴリンは仕事にすべてを捧げている人で、それ以外のことはオフィスの人間関係すらうまく築けない人なんです。だからいつも居心地が悪いと感じています。ジギーは強い承認欲求の持ち主ですが、両親からもそんなに構ってもらえません。それでクレイジーなペルソナを作り上げたんです。自分のロゴを作ったりブランディングをして自分は重要な人物だと訴えているわけです」と2人の主人公について解説してくれた。「自分自身に納得できずに不安を抱え、だから自信があるように演じていますが、ぜんぜんリアルに見えない。そんな葛藤のあるキャラクターは大好きだし、演じるのも楽しいんです」。 エヴリンを演じるのはジャンルを問わず活躍しているオスカー女優ジュリアン・ムーア。ジギー役は「ストレンジャー・シングス 未知の世界」や『IT/イット』2部作、『ゴーストバスターズ/アフターライフ』(21)で絶賛されたフィン・ウルフハードと、これ以上ないキャスティング。監督として2人とどんなディスカッションをしたのだろうか。「撮影をはじめたのは2021年の1月で、まだワクチンもなく、新型コロナウイルスによるダメージが大きい時期でした。ですからリハーサルもできないというとても特殊な状況。ただしフィンは1年以上前にAudibleを聴いてくれていて、完璧に役作りをしてくれました。ジュリアンは世界でもっともすばらしい女優の1人ですから、メールやビデオのやり取りだけで役をつかんでくれて、こんな声のトーンはどうか、こういう衣装が合うんじゃないかといろんなアイデアを出してくれました」と2人を称賛。おかげで現場に入ったあとは、役作りもほとんど手直しの必要はなかったという。 ■監督デビューについては「奇妙な感じ」次回作の構想も明らかに 本作はアイゼンバーグにとって初の長編映画監督作。監督デビューを果たしたいまの気持ちを聞くと「正直にいえば奇妙な感じ」だという。「実は、僕は自分が出た作品を観ないんです。監督したこの映画もいろんな映画祭で上映してもらいましたが、完成後は観ていません。観てしまうと、どうしても手直ししたくなりますから。だからいろんな人たちの反応も、そうなんだ…と奇妙な感覚で受け止めています」。シャイなアイゼンバーグらしい答だが、作品を作り上げた手応えはあったようだ。「映画を監督できたことは、僕にとって喜びでした。俳優に限らず、芸術の仕事は常に不安がつきものです。1つの仕事が終わったあと、次の仕事があるのかまったく保証はありません。そんななかで僕らにできることは、創作意欲を捨てず自分に挑戦し続けることだけなんです。なにかをやり続けることが、なにより大切だと思っています」。 俳優のほか、プロデューサー、脚本家、作家としても活躍しているアイゼンバーグ。本作でその肩書きに新たに監督が加わった。最後にこれからも監督の仕事を続けていくのかと問うと「イエス、イエス、イエス!」と即答だった。「いま(2023年11月末)ちょうど2作目の監督作『A Real Pain』のポストプロダクションの真っ最中です。編集をしながら、追加撮影をしたいけど時間がないしどうしようと頭を悩ませているところ(笑)。いとこ同士の2人がポーランドに旅をする物語で、僕とキーラン・カルキンが演じています。この脚本も自分で書いたんですが、これからも監督と俳優どちらも続けていきたいと思っています」。 取材・文/神武団四郎