在日外国人と日本社会の共生努力を後退させる右派の差別扇動
<これまで大きなトラブルもなく10年以上にわたってうまく共生してきた埼玉県蕨市のクルド人と日本人の関係に楔を打ち込む事件があった。なぜ共生はうまくいかないのか>
2月18日、埼玉県の蕨市駅周辺で、右派系市民グループ「日本第一党」に所属していた人物が主催するデモが行われた。標的にされたのは、川口市や蕨市に住むクルド系の住民だ。【藤崎剛人(ブロガー、ドイツ思想史)】 日本社会で暮らす外国人や外国にルーツを持つ人々の数は増えつつある。その一方で、右派系市民グループや右派系ジャーナリスト、またSNSなどで煽られた匿名のアカウントらが、地域社会に定着して暮らしている外国人の生活を脅かすという現象が生じている。 <埼玉県南部のクルド人コミュニティへの差別の拡大> 近年、川口市や蕨市など埼玉県南部地域では、クルド系住民の数が増えている。難民申請者もいれば正規ビザ取得者もおり、在留資格は様々だが、人口は約2000人と言われる。現地でクルド人と日本社会の関係構築に取り組んでいる日本クルド文化協会によれば、これまではいくつかのトラブルはあれども概ね平和に共生できていた。蕨市や川口市は多文化共生プログラムを推進し、交流事業や生活サポートを行っており、また地元の町内会などでも外国人を受け入れてきた。しかし近年、様々なデマを伴う扇動がインターネットを中心に行われていることにより、これまでの積み重ねが大きく後退しようとしているという。 川口市・蕨市といった地域は、元々多国籍化が進んでいた地域でもあった。たとえば川口市は、クルド人コミュニティが話題になる以前は、大きな在日中国人コミュニティがあることで知られていた。川口市や蕨市の多文化共生の取り組みは、クルド人だけでなく様々な民族が暮らす現実に沿ったものだ。 一方、外国人を排斥しようとすると右派系市民グループはそれを苦々しく思い、昔からこの地域で排外主義活動を行ってきた。古くは2009年、「不法滞在」のフィリピン人の両親を持つ、日本で生まれ日本で育った在留特別許可が与えられた中学生の少女を「日本から追放」することを目的としたデモが行われた。このデモを行った団体は「在日特権を許さない市民の会」いわゆる在特会であり、主に在日コリアンを迫害する団体として知られているが、2月18日の反クルド人デモの主催者が所属していた団体「日本第一党」は、まさにこの在特会の後継団体であった。