【解説】 なぜトランプ次期大統領はパナマ運河やグリーンランドに目を付けているのか
ケイラ・エプスティーン、BBCニュース ドナルド・トランプ次期米大統領は、ウクライナでの戦争のような紛争からアメリカを引き離し、貿易相手国に対する関税を引き上げ、国内製造業を再建するという公約を掲げて選挙戦を戦った。 しかし、最近では、より外向きで攻撃的な外交政策を示唆している。 始まりは、カナダをアメリカの51番目の州にすると冗談を言ったことだった。その後、パナマ運河の支配権を取り戻すと脅迫した。また、グリーンランドの購入を望んでいると再び述べた。もちろん、グリーンランドは売り物ではない。 アメリカがこれらの地域を支配する可能性は低い。しかし一連の発言は、次期大統領の「アメリカ・ファースト(アメリカ第一主義)」のビジョンが、アメリカの貿易と国家安全保障の利益のために国境を越えて超大国の力を誇示することを含んでいると、示唆しているかもしれない。 トランプ次期大統領は22日、アリゾナ州で開催された保守派の会議で、中米パナマがパナマ運河を利用するアメリカの船舶に「ばかげていて非常に不公平な」料金を課していると発言した。 パナマ運河をめぐっては、アメリカは20世紀初頭に建設を引き受けた後、1970年代に条約を通じ、パナマに完全に支配権を譲渡した。しかし次期大統領は、「ぼったくり」が止まらなければ、運河をアメリカに返還するよう要求すると主張。ただし、具体的な方法には言及していない。 次期大統領は、パナマ運河が「好ましくない者の手に渡る」ことを望んでいないと述べ、特に中国を名指しした。中国はこの運河に大きな利害関係がある。 外交問題評議会の中南米研究員であるウィル・フリーマン氏は、次期大統領の発言について、「アメリカの国家安全保障にとって、中立性を維持することは非常に重要だ」と述べた。 「トランプ氏の発言は主にその点に関するものだ」とフリーマン氏は続けた。 データによると、中国はアメリカに次ぐパナマ運河の第2の利用国。また、パナマに大規模な経済投資を行っている。 2017年、パナマは台湾との外交関係を断ち切り、台湾を中国の一部と認めた。これは中国政府にとって大きな勝利だった。 フリーマン氏は、パナマ運河はアメリカの太平洋貿易にとって不可欠であり、中国との軍事衝突が発生した場合には、アメリカの船舶やその他の資産を移動させるために必要になると話した。 また、トランプ次期大統領が、アメリカは貿易相手国によって不公平な扱いを受けていると頻繁に述べていることや、外国製品、特に中国製品に対する関税を大幅に引き上げると公約していることを指摘した。 そして、次期大統領の通航料に対する不満は、貿易に対する自身の見解を反映しているようだとフリーマン氏は述べた。 さらに、こうした発言は「高圧的」かもしれないが、「運河当局が脅しに応じてアメリカの貨物に対する料金を引き下げるかどうかはまだ分からない」と付け加えた。 パナマのホセ・ラウル・ムリノ大統領は、運河とその周辺地域が自国に属しており、今後もそうであるとする声明を発表している。 ■グリーンランド購入の意向を再表明 同じ週末、トランプ次期大統領はソーシャルメディアの投稿で、「世界の国家安全保障と自由のために、アメリカにはグリーンランドの所有と管理が絶対に必要だと感じている」と述べた。 アメリカはグリーンランドにピツフィク宇宙軍基地を所有している。また、この地域は希少な鉱物資源を含む豊富な天然資源を有し、世界の大国が北極圏での影響力を拡大しようとする中、貿易のための戦略的な場所に位置している。 ロシアは、他国よりも特に、この地域に戦略的な機会があるとみている。 トランプ氏は大統領1期目の在任中だった2019年にも、グリーンランドの購入を提案したが、実現には至らなかった。 グリーンランドのムテ・エーエデ自治政府首相は今週、今回の次期大統領の発言に対し、「我々は売り物ではないし、今後も売り物にはならない」と応じた。 それでも次期大統領は、インターネット上でこの発言を強調し続けた。 自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」の自らのアカウントには、パナマ運河の中央にアメリカ国旗が立てられている画像が表示された。 次男のエリック・トランプ氏はXに、アメリカがグリーンランド、パナマ運河、カナダを通販大手アマゾンのショッピングカートに追加している画像を投稿した。 トランプ氏にとって、アメリカの力を国益のために活用するという約束は、2度の大統領選挙で成功を後押しするものとなった。 これは、最初の大統領任期中に使用した戦術でもある。当時のトランプ政権は、メキシコに対して関税の脅威や「武装兵士」の配備をちらつかせ、アメリカとの国境地帯の取り締まりを強化させた。 2期目が迫る中、トランプ氏は来年1月20日の就任後に同様の戦術を取ることを計画している可能性がある。 今後の展開は不透明だが、グリーンランドを所有するデンマークは次期トランプ政権と協力する意向を示している。 一方で、次期大統領がグリーンランドの購入を再び望んでいると述べた数時間後に、デンマークはグリーンランドの防衛費を大幅に増額することを発表した。 (英語記事 Greenland and the Panama Canal aren't for sale. Why is Trump threatening to take them?
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