<勇敢・豊川’24センバツ>主砲2ラン及ばず 一時2点差、最後まで全力 /愛知
第96回選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高校野球連盟主催)は19日、初戦を迎えた豊川が阿南光(徳島)と対戦し、4―11で敗れた。試合は終始追いかける展開となったが、八回には強打者、モイセエフ・ニキータ(3年)が今大会1号となる2ランを放ち、一時2点差まで追い上げる粘りを見せた。全力疾走でプレーし、最後まで諦めずに戦った選手たちにスタンドからは温かい拍手が送られた。【塚本紘平、後藤佳怜、永海俊】 【写真で見る歓喜の瞬間】歴代のセンバツ覇者たち 今大会第1号の本塁打が生まれたのは八回裏1死一塁。1―5と劣勢の中で打席に立ったモイセエフは、2ストライクに追い込まれた後の3球目を思い切りよく振り抜いた。今大会から導入された低反発バットの不利をものともせず、打球はライトポール際にライナーで突き刺さった。 その瞬間、豊川のスクールカラー、えんじ色にスタンドを染めた約1600人の地元応援団からは「きゃー!」と悲鳴にも似た歓声が上がった。 試合はいきなり一回から動いた。エース左腕の鈴木爽太(3年)が先頭から2連打を浴びるなど2点を失う。その後も制球が安定せず、二回2死満塁で降板した。後を継いだ林優大(3年)は走者一掃の適時二塁打を打たれ、序盤から5点を追う展開となった。 林優大はその後立ち直り、3回3分の1を被安打1に抑える好投で役目を果たした。祈るような気持ちで見守っていた父佐光さん(49)は「優大はピンチの時ほど気合が入るタイプでよく頑張った」とたたえ、優大の弟優翔(2年)に向け、「チームを勢いづけるヒットを打ってほしい」とエールを送った。 反撃の口火を切ったのは七回。先頭の中村丈(3年)が右前安打で出塁すると、後続も安打や四球で続き、2死満塁の好機を作る。「いけ! いけ! 豊川!」。スタンドの大声援を受けて打席に立ったのは代打の三浦康生(3年)。外角の直球を強振した打球は三遊間を破り、1点を返した。父和則さん(51)は「(ファーストストライクを)一球で仕留めてさすがだった。思わず涙が出ました」。 続く八回に飛び出たモイセエフの2ランに、父セルゲイさん(47)は「必ず結果は出ると信じていたがこのホームランは今でも信じられない」と興奮気味に話した。 しかし九回、相手打線に6点を奪われ、その裏に1点を返したが、ここまでだった。力を尽くした熱戦に、スタンドからは惜しみない拍手が送られた。 ◇応援歌刷新し声援 ○…豊川はセンバツに向け、ほぼ全ての応援歌を刷新した。男子ソフトボール部監督の太田亘哉教諭(36)が「全校で盛り上がれるように」と、サッカーやバスケットボールの応援動画も参考に10曲を考案。野球部員で応援団長の吉田柊晴(3年)は「野球応援では珍しい曲があるのが特徴。今大会はメンバー入りできず悔しいが、声で仲間を支える」と話し、約1600人の応援団全員が声を出す「全力応援」をリードした。 ◇地元PV、市民声援 ○…愛知県豊川市のイオンモール豊川ではパブリックビューイング(PV)があり、市民ら約80人が選手たちに声援を送った。 先行された序盤は「相手が一枚上かな」とため息が漏れたものの、追い上げが始まると、学校側から配られた校名入りの小旗を振って懸命に応援。2点差に詰め寄った際は大きな歓声が上がった。 だが最終回に突き放されてゲームセット。友人らと5人で観戦に訪れた同市の主婦(61)は「緊張で本来の調子が出なかったのでは。でも、最後まで頑張り、いい夢を見せてくれました」とねぎらった。 ……………………………………………………………………………………………………… ■ズーム ◇代打、無心でタイムリー 豊川・三浦康生内野手(3年) 「何も考えず打つことだけを考えよう」。5点を追う七回裏2死満塁。長谷川裕記監督から代打を告げられた時、こう開き直った。三遊間を破る適時打を放ち、無我夢中で走った。 昨秋の公式戦では主に代打で出場。5試合で計7回の打席に立ち、二塁打2本を含む3安打2打点と活躍した。しかし、3月から解禁された練習試合では20打席近く立ち、ヒットはわずかに2本。スイングする時に体が開くクセの修正に励んできた。 調子が上がらず不安の中でこの日を迎えたが、絶好の場面で長谷川監督に名前を呼ばれた瞬間、逆に迷いは消えた。無心で振り抜いた値千金の適時打を「本当にうれしかった」と振り返る。 チームの敗戦に悔しさをにじませる。夏に向け、レギュラーの座を勝ち取ることがこれからの目標だ。「試合に出てバッティングでチームを救いたい。そしてまた甲子園でプレーしたい」。勝負強さと長打力が持ち味の仕事人は固く誓った。【塚本紘平】