『君が心をくれたから』あまりにも過酷な過去に向き合う雨と太陽 千秋の意味深な言葉も
事故に遭った太陽(山田裕貴)を救う唯一の手立て。それは“あの世からの案内人”である日下(斎藤工)からの提案を受け入れること。“奇跡”と称されたその提案を飲み、雨(永野芽郁)は自らの五感を差し出すことを決める。1月15日に放送された『君が心をくれたから』(フジテレビ系)第2話は、雨と太陽の数年ぶりの再会を描いた青春ドラマだった第1話から一転、ファンタジー色が強まったなかでそれぞれが、あまりにも過酷な過去に向き合おうとする姿を描く。これこそがこのドラマの本質なのだろう。 【写真】雨(永野芽郁)にマカロンを渡す太陽(山田裕貴) あと14日で味覚を失う雨。“奇跡”のことと案内人のことを他言すれば強制終了となるが、太陽にだけは話してもいい。そう告げられた雨だったが、太陽にも話すことを拒否し、自分のなかに留めておくと決めた。そんな折、見舞いに訪れた雨は太陽からマカロンをもらう。二人にとってマカロンは、高校時代の思い出の味でもあった。そして味覚を失ってしまう前に街へ食べ歩きに出かけた雨は、かつて働いていたパティスリーのパティシエ・田島(ジャン・裕一)と再会。「夢を諦めるのはまだ早い」と言葉を掛けられるのだが、お菓子作りには必要不可欠な味覚を失うまでのタイムリミットは刻一刻と迫っていた。 味覚、嗅覚、聴覚、視覚、触覚。雨が奪われることになるすべての感覚も、常に記憶と結びつくものである。それを象徴するかのように、物語は今回もまた現代である2024年と、2015年の記憶とが交差するようにして展開していく。それらを繋ぐのは、マカロンという思い出の味であり、雨はそれを“恋と夢の味”と形容する。2015年、面接のために東京へ向かう前夜に、不安がって眠れずにいた雨と、5時間もの長電話をした太陽。翌日彼は雨にマカロンを手渡し、“お菓子言葉”があることを教えるのだ。 マカロンの“お菓子言葉”は、「あなたは特別な人」。そのメッセージを携えたマカロンの味を、雨は味覚を失った瞬間に口にし、なんの感覚もないことを痛感するラストの一瞬の間。味覚を失っても“思い出の味”はおろか、その思い出が消失することはもちろんない。けれどもそこにはただ味覚を失うこと以上に大きな喪失が伴うのだと表されたこのシーンを観ると、残りの4つの感覚が失われる瞬間を想像しただけでなんとも居た堪れない気持ちにさせられてしまう。 同時に今回のエピソードでは、雨と太陽それぞれの家族の物語にも踏み込んでいく。太陽は自分の母親を失った花火工場の火災を思い出し、その事故のことを調べて火災の原因が自分にあったことを知る。一方で、雨も母・霞美(真飛聖)の居場所を祖母・雪乃(余貴美子)に訊ね、太陽と司(白洲迅)と連れ立って会いに行こうとする。直接顔を合わせる代わりに雪乃を通して渡すマカロン。もちろんここでも“お菓子言葉”は生きているわけで、前回描かれた雨のなかにあるトラウマとの訣別が、(先述した田島との再会も含めて)第2話で早くも為されたことになる。 それにしても気になるのは、日下と共に“案内人”として現れる千秋(松本若菜)の存在だ。“奇跡”のために五感を失うことになる雨に対し、「一人で乗り越えられるほど、五感を失うのは簡単なことじゃない」と告げるその言葉は、あたかも“奇跡”を経験した者の口ぶりに思える。病院まで太陽の姿を見に現れたり、海辺でばったり太陽と鉢合わせた時の反応を見ると、もしかすると彼女は太陽が顔を覚えていない母親であり、あの火災の時に“奇跡”を経験したのだろうかと考えることもできるのだが、はたして。
久保田和馬