「〝テーマパーク〟飛田新地にはない〝秘境感〟」日常空間に溶け込んだ歓楽街 大阪・松島新地の夜と昼
飛田新地に次ぐ大阪の〝料亭街〟松島新地について風俗ジャーナリスト・生駒明氏が徹底ガイドする記事の後編。飛田とはまた違うという松島新地独自の魅力とは──。 【ここから入って】訪れる者を出迎える松島新地の〝入口〟のような場所 前編「「メイン通りのレベルは飛田新地に引けをとらない」インバウンドも熱い視線 大阪・松島新地徹底ガイド」はこちら ◆複数の女性たちが同時顔見せする夜の新地 夜20時、再び新地の中を見て回る。メイン通りには、大きな耳飾りをつけたバニーガール、薄いピンクのナース服のコスプレをした女性や、白いTシャツ姿の女性もいる。1店の中で複数の女性の同時顔見せは、とにかく迫力がある。特に3人の女性が山型に並んでいると、絵画を見ているようだ。 裏通りは〝穴場〟である。メイン通りの裏手に細い路地があり、狭い入り口で2~3人の女性が寄り添って顔見せしている。密着しているのが見やすくていいと評判だ。すごい美人はいないが、ごく普通の容姿の素人っぽい女性ばかりで、なんだかホッとする。このあたりは飛田新地の裏通りに通じるところがある。 大阪九条郵便局の近くの駅チカ・郵便局エリアの奥まったところに、『K』というおとぎ話に出てきそうな独特の店構えをした料亭がある。アーチ型の入り口の奥で、黄色い三日月の絵を背景に女の子たちが顔見せしているのが、メルヘンチックで楽しい。まさに〝夢の世界〟そのものだ。 客層は飛田新地と変わらない。中年男性だけでなく、若者もいれば、白髪のシニアもいる。外国人もアジア系から白人まで、個人から団体まで、さまざまだ。違うのは、その数と密集度である。圧倒的に飛田新地のほうが数が多く密集度が高い。店も客も一ヵ所に集まっている感じだ。 松島新地を巡って強く感じたのは、ほとんどの女性が〝愛想がいい〟ということだ。どの子も〝ニッコリ〟笑って大きく手を振ってくれる。飛田新地ではあまり見られない。たまに手を振る子もいるが、数は少ない。 松島新地は女性のレベルの差が小さい。全体的に〝かわいい素人女性〟といった感じでまとまっている。飛田新地のほうが女性のレベルの差が大きい。ものすごい美貌の若い女性がいると思えば、かなり熟した女性がいたりする。もちろん松島新地にも、ぽっちゃりした熟女もいるのだが、それほど目立たない。 また、松島新地のほうが料亭の建物が新しいものが多い。外装が凝っており、黄色、緑、ピンクとカラフルに壁を塗っている店もある。飛田新地でカラフルな料亭を見たことがない。 夜が深くなるにつれ、足が疲れてきた。松島新地には手軽に座って休憩する場所がないので、長時間の滞在はキツイ。ここには、客が集まる場所がない。客はみんなバラバラで歩き回っている。客はいる。だが少ない。広い空間でゆとりを持って楽しめる〝ミニ飛田〟といった感じである。〝遊びやすさ〟という点では飛田新地が優っているのだが、〝秘境感〟という点では松島新地が上である。知る人ぞ知る〝大人の隠れ家〟といったところだ。 ◆色街が日常感の中に溶け込む昼間の新地 早朝の松島新地は完全に〝普通の街〟である。通勤や散歩の人たちが、自由気ままに行き交っている。6月13日(木)の朝7時45分ごろ、料亭の玄関はどこも閉まっており、客の姿はほとんどない。ときおり客らしき男性の姿があるが、店がやっていないので歩いているだけだ。 新地の通りを眺めていると、赤ん坊を乗せたベビーカーを押して歩いていくオバサンを発見。ちょんの間とのあまりにアンバランスな光景に笑ってしまった。シニアカーを押してのんびりと歩く高齢男性や、買い物帰りの自転車で走り抜けていくオバサンもいる。頭に白いタオルを巻いた現場作業員らしき男4人組がのそのそと歩いていく。ユンボがある新地内の工事現場に向かうのだろう。 警備員のオジサン、土木作業員のお兄さん、Yシャツ姿の会社員、黄色い帽子を被った通学中の小学生の女の子。ウーバーイーツの三輪バイクが停めてあったり、マクドナルドのデリバリーの自転車が走っていったりと、午前中の松島新地は日常そのものだ。 松島新地には〝嘆きの壁〟がなく、飛田新地のように周囲から隔離されていない。〝ちょんの間〟がすっかり街に溶け込んでいる。歓楽街と日常生活の空間がミックスされている。ちょんの間の近くで、普通の人たちが普通に暮らしている。 観光地化していないので、一見客だと全体を把握するのは難しい。逆に言えば、客が少なく混んでいないので、何度も訪れて楽しむには最適ともいえる。どちらかというと、じっくり時間をかけて楽しむ〝常連客向け〟の場所だろう。飛田新地が〝ディズニーランド〟なら、松島新地は〝自然共生型のアウトドアパーク〟である。〝誰もが気軽に楽しめる初心者向けのテーマパーク〟が飛田新地で、〝ある程度遊び慣れたベテランが散策を楽しむ場所〟が松島新地といった感じだ。さらに上級者になると、今里、信太山、滝井という、大阪の五大新地の中でもよりディープなエリアに入っていくのだろう。 午前10時30分になると、ポツポツと料亭がオープンし始める。30軒ほどが集まるメイン通りでは、中央付近の2軒がすでにやっており、女性が1人ずつ顔見せしている。昼の11時になると、裏通りの料亭も開店していく。昼間の女性もかわいい。胸元の開いた黒いドレスの女性と、グレーのパーカーを着て赤いキャップを被った女性のかわいらしさに、つい見とれてしまう。やはりここは〝男の楽園〟である。目が合うと、昨夜の女性たちと同様に、〝ニコニコッ〟と笑顔を作って手を振ってくれる。営業スマイルだと分かっているのだが、やたらうれしい。 「お兄ちゃん、上がってや。今来たばかりやで。まだこの子しかおらんから。ええ子やから、遊んでって」とおばちゃん。松島新地は全体的におばちゃんが若い。裏通りには高齢のおばちゃんもいるが、メイン通りのおばちゃんはやたら若く見える。 午前11時過ぎ、おばちゃんが料亭の玄関前にホースで水を撒いている。さぁ、料亭の一日が始まる。通りをサングラスをした背の高い白人のカップルが歩いていく。男性はTシャツに短パン、女性はカラフルな薄地のワンピースだ。もうすっかり夏である。 この日は今年最初の真夏日であった。うだるような暑さの中で新地の様子をチェックして分かったのは、松島新地は〝テーマパーク化しきっていないところが魅力〟ということだ。不便だから楽しい。都市とジャングルが融合したような〝半分手付かずの色街〟が残っていることが、うれしくてたまらない。来たる大阪・関西万博の開催期間には、〝冒険好きな〟世界中の男性たちで賑わうに違いない。 取材・文:生駒明 ペンネームはイコマ師匠。風俗情報誌『俺の旅』シリーズの元編集長。徹底した現場取材をモットーとし、全国の歓楽街を完全踏破。フリーの編集記者として、雑誌やサイトの記事、自らのSNSなどで『俺の旅』を継続中。著書に『フーゾクの現代史』『ルポ日本異界地図』(共著)。
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