川勝平太知事が辞任でさらなる混沌に…静岡県内で浮き彫りになる「リニア工事」本音と建て前
新人職員への訓示の中での「県庁というのは別の言葉で言うとシンクタンクです。毎日野菜を売ったり、牛の世話をしたり物を作ったりとかと違って、基本的に皆さんは頭脳・知性の高い方たちです」という職業蔑視ともとれる発言で辞任の憂き目を見た川勝平太・前静岡県知事(75)。 【写真】不適切発言でついに退陣…川勝平太知事「開き直り」の表情 発言を受けて県庁にはクレームが殺到。ワイドショーでは連日、リニア問題も絡めて取り上げられた。そんな混乱のなか、5月26日に静岡県知事選挙が行われる。各陣営からは準備期間の少なさを嘆く声が聞こえてきた。地元記者の解説。 「当初は立憲民主党の渡辺周衆院議員(62)や、国民民主党の榛葉賀津也参院議員(57)の出馬が取り沙汰されました。自民党の細野豪志衆院議員(52)がどう動くかも注目されていた。ただ、周さんも榛葉さんも手は挙げたいものの、準備期間の短さや党内での立場を考慮し、忸怩(じくじ)たる思いで身を引いた。結局、自民党静岡県連が支援する元副知事の大村慎一氏(60)と立憲、国民民主が支援する前浜松市長の鈴木康友氏(66)が出馬を表明しましたが、浜松経済界のドンこと、自動車メーカーのスズキの鈴木修相談役(94)が支援する鈴木康友氏が優勢です」 県内で話を拾っていくと、リニアという巨大事業を巡って与野党でメディアを巻き込んだ“政戦”が行われているという。静岡自民の関係者が話す。 「リニアは安倍晋三元総理と昵懇だったJR東海の故・葛西敬之元会長の肝いり事業でした。総工費9兆円といわれる莫大な費用がかかりますが、リニア対応で自民党は県内での存在感が弱まった面があり、“川勝降ろし”に躍起になっていた層もいる。そんな静岡自民も、静岡圏と浜松圏では意見が食い違っており、必ずしも一枚岩ではない。裏金問題の塩谷立衆議院議員(74)に、パパ活疑惑の宮澤博行衆議院議員(49)と不祥事が相次いだことも打撃となっている」 地元の財界では、リニア問題はどう受け止められているのか。スズキやヤマハなど大手企業が集まる静岡最大の経済圏でもある浜松では、こんな意見も聞こえてきた。 「リニア問題は『県民の生死にかかわる』といった川勝知事の発言ばかりが叩かれていましたが、JR東海の対応もマズい。実際、静岡では工期の遅れを静岡県のせいにしているJR東海の言動に対し、不快感を持っている県民も少なくない」(浜松経済界関係者) 川勝知事の辞任後、JR東海は会見を開いて、「当初開業予定の’27年までに工事が間に合わない」と発表。地元の財界で疑問の声が上がった。 「JR東海の丹羽俊介社長はこれまで『静岡工区のようなところは他になく、静岡工区の遅れが開業の遅れに直結している』と、開業が延びている理由を静岡の問題にしていました。ところが、川勝前知事が辞任したとたん“山梨と長野の工区でも工事が遅れている”と発表した。そもそも着工すらしていない箇所まであると言っていましたが、普通に考えてそんなことはありえないでしょう。そもそも、静岡はリニア開業による経済効果と県民の生活や産業を天秤にかけて、環境が整えば工事を進めるというスタンス。必ずしも反対ではないのに悪者扱いされることには憤りを感じます」(同前) リニア問題で右往左往してきた静岡だが、今回の県知事選挙でリニアは争点にはならない、という見方もある。前出の地元紙記者が解説する。 「前回の選挙は『県民の安全を守る』川勝氏対『リニア推進の自民党』という構図に持ち込んだ川勝氏が圧勝しましたが、今回の候補者の大村氏、鈴木氏はどちらもリニアに対して“環境保護と両立させて推進する”という意向を示している。どちらが勝っても工事は進むでしょう。ただ、それでも静岡にリニアの停車駅がないことは変わらず、県は恩恵を受けない」 静岡県民の中にはいまだに強烈なリニアアレルギーがあり、川勝前知事の再出馬を求める署名活動まで行われている。県民や地元企業の意向が置き去りにされたリニア工事は、新知事の就任で加速するのか、それとも――。
FRIDAYデジタル