井岡一翔は日本人初の4階級制覇に成功するのか?名王者・内山高志の見解は
内山高志の見解は「ポイントを奪って勝つ」
ニエテスをひとことでいえば「巧くて強い」。2007年にのちに八重樫東(大橋)と激闘を演じるポンサワン・ポープラムック(タイ)をWBO世界ミニマム級王座決定戦で判定で破り、初タイトルを獲得。4度防衛後、ライトフライ級に転向し、2011年にWBO世界ライトフライ級王者ラモン・ガルシアに挑戦し、判定勝ちで2階級制覇に成功。IBFとの王座統一戦を制するなど9度の防衛を重ねた後に2017年にエクタワン・クルンテープトンブリ(タイ)とのIBF世界フライ級王座決定戦を判定で勝って3階級制覇を達成した。 フライ級では、2018年に井岡がてこずって2度戦ったファン・カルロス・レベコ(アルゼンチン)を7回KOで沈めた。 左ジャブから攻める正攻法があれば、接近戦ではアッパーなど多彩なパンチを繰り出してくる。ディフェンスも堅く幅があるボクサーだ。レベコは右を効かせて倒した。 ニエテスは、注目を集めるイベント「スーパーフライ」にターゲットを絞り、王座を返上して井岡がアローヨに勝った「スーパーフライ3」で、アストン・パリクテとWBO世界スーパーフライ級の王座決定戦を戦ったが、結果はドロー。「ニエテスが勝っていた」の声も多かったが、やはりパワー不足が目立った。今回、その空位のままとなった王座をニエテスと井岡が争うことになったわけだが、何度か、井岡のジムワークを見ている内山氏は、井岡有利説を唱える。 「(接戦になった)前回はブランク明けの影響もあったと思う。僕も経験しているが1年以上も空くと、なかなか試合感覚がつかめないもの。1ラウンド目に緊張感があったりする。井岡も打たれた感はあったが、今回は試合勘も戻って、もっといいパフォーマンスを出すと思う。相手が上の階級から降りてきた選手ならきついが、同じく下から4階級制覇を狙う選手でパワーがあるタイプじゃない。技術戦になると思う。井岡も、パワーがあるタイプじゃないが、パンチの当て勘、カウンター、ボディ打ちは上手い。序盤にボディが当たると楽にいける。相手の打ち終わり、入ってくるところにカウンターを当てて、ダメージを重ねていく感じになるのでは。判定でしっかりとポイントは取る。練習では接近戦での足さばき、体さばきなんかもやっていた。元々足を大きく使うタイプだし僕は勝てると思いますよ」 内山氏の現役時代は、井岡と同じく大晦日に他局で試合を行っていた。ただ時間的に井岡の試合の方が早く内山氏は、待機していたホテルの部屋でテレビ観戦してから会場入りしていた。 「当時は、いい試合をするんじゃねえよ、と思っていましたね(笑)。対抗意識じゃないけれど、たくさんある試合の中で一番いい試合をしたかったから。でも、それくらい一翔はいいボクサーだった」 KOダイナマイトと呼ばれた名王者の試合予想は的確だろう。ニエテスに破壊力がないのは、井岡にとってラッキーで、ペースを奪い合う根競べのような技術戦になれば、出入りのスピードで井岡の方が勝る。 ニエテスは攻守の切り替えがハッキリしているが、井岡が守りに回ったタイミングを見逃さずに確実にポイントを重ねていくのではないか。しかもニエテスは36歳、後半になればなるほど、手も足も止まるだろうし、ますます井岡のペースになる。内山氏が言う、ダメージの蓄積があれば「後半KO」もあるのかもしれない。 内山氏は不安要素として、「階級を上げると耐久力は上がる。減量が楽になり、こちらのパワーも上がるんだろうが、軽量級では、まともにバチーンと当たっても効かないことがある。ポイントを取られているケースで、いいのが当たって“あれ?”となるのが怖い。強いていえば、そこだけでしょう」と指摘した。 ただ、井岡は、すでに9月のアローヨ戦で、その階級の壁は感覚として味わっている。今回は「スマートに戦う」の言葉通りに倒すことにこだわることなく勝利に徹するのだろう。 これまでは井岡は八重樫との統一戦などのビッグファイトに勝利してきたが、ロマゴンや、ファン・エストラーダとの指名試合は回避、ボクシングをよく知るファンからは「井岡は逃げている」というありがたくない評価を受けていた。 それがジムの方針だったのか、彼自身の選択だったのか、は、よく知らないが、今、環境を変えて復帰した井岡は、こんな哲学を口にする。 「そのため(強豪との対戦)に復帰して、舞台をかえて、やろうと決意した、知名度のある選手と4階級制覇をかけた試合のできることを光栄に思う。やる限りは注目してもらいたいし注目に恥じない試合で勝ちたい。正直、こんなに早く(4階級制覇への挑戦が)できるとは思っていなかった。海外は、タイトルよりも誰と戦い、どう証明をするか、が重要視される。名のあるボクサーなら誰でもよかったが、しかも、今回はタイトル戦。モチベーションは上がっている。新たな挑戦という気持ち」 その勇気は、4階級制覇というまだ日本人ボクサーの誰もが見たことのない頂からの景色を眺めさせてくれるのかもしれない。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)