生徒の自由を剥奪する「ヤバい校則」が「最悪の思考停止」だと断言できる「シンプルな理由」
クローン人間はNG? 私の命、売れますか? あなたは飼い犬より自由? 価値観が移り変わる激動の時代だからこそ、いま、私たちの「当たり前」を根本から問い直すことが求められています。 【写真】「ヤバい校則」が「最悪の思考停止」だと断言できるシンプルな理由 法哲学者・住吉雅美さんが、常識を揺さぶる「答えのない問い」について、ユーモアを交えながら考えます。 ※本記事は住吉雅美『あぶない法哲学』(講談社現代新書)から抜粋・編集したものです。
ダメ人間の気持ちがわかる法哲学
前章でも述べたが、私は酒が大好きである。酒が飲めないと仕事をする気も起きない。飲むために働いているといっても過言ではない。したがって、禁酒法なんてのが施行されることになったらこの世の終わりである。 アメリカで、かつて禁酒法という法律が施行されたことがあった。しかし、人間の欲求や嗜好を法律で封ずることはできない。禁じられても欲しいものはどうしたって欲しいのである。結果的に、人々は酒を求めて闇の世界に向かい、マフィアの台頭を許すこととなった。 禁止すればよいというものではないのである。19世紀当時のイギリスで労働者が安酒をあおっていろいろ問題を起こしていた件につき、「身体や心、社会に宜しくないから、酒場を減らそう」という意見があったが、イギリスの哲学者ジョン・スチュアート・ミル(1806─1873)はそれに反対して「酔って他人に危害を加える者については規制してもよいが、酒そのものを規制することはない」として、酒場のライセンス制を提案した。 労働者は大の大人だ。酒を欲する彼らの欲求を抑え込む必要はない。問題なのは酒を飲んで暴れるような者である。 だから、そのような輩を出さないようきちんと管理ができる酒屋にライセンスを与え、そこでの酒の提供を自由にさせればよいというのである。実に合理的ではないか。
思考停止した「ヤバい校則」
人間には食欲・睡眠欲・性欲をはじめとして、酒や煙草など我慢しきれない根源的・伝統的な嗜好への渇望がある。 ところが現代ではそれらに悪のレッテルを貼り、そういうものに打ち克つのがまともな人間で、我慢できない者はダメ人間と決めつける風潮が強くなっている。 だが、そんな超人的なことを万人に要求することは現実的ではない。法律は聖人君子に対してではなく、欲望に抗しきれないほとんどのダメ人間に対して向けられるものである。 ならば、むしろ欲望を認めて、そのうえで悪しき結果にならないよう工夫する方がましではないだろうか。 だいたい、善悪を決めつけ、人々に権力をもってああしろこうしろと強制する掟や規則にはろくなものはない。校則がその最たるものである。 ある高校では、「髪を黒くしろ」と、生まれつき茶色の髪の少女に髪染めを強要した。無理に髪を染めさせ続けられた彼女の頭皮は痛んでしまった。 その高校の教師はそのことを詫びるどころか、なんと「金髪の外国人生徒が留学してきたとしても、黒く染めさせる」と言ったという。 これは思考停止である。いったい、髪の色が教育にどう影響するというのか? 髪が黒くなければちゃんと教育ができないとでもいうのか? それなら教師の方も、ちゃんとした教育をするために髪を染めなければならないだろう。白髪の先生も真っ黒に染めなければならないし、御髪の少ない先生も肌色の頭皮を油性ペンで黒く塗らなければならない。 さらに連載記事<「真面目すぎる学生」が急増中…若者たちを「思考停止」させる「日本の大問題」>では、私たちの常識を根本から疑う方法を解説しています。ぜひご覧ください。
住吉 雅美