安田顕×林遣都『死の笛』の全貌が明らかに 坂元裕二による想像を超える“温かく怖い”物語
2011年に行われたTEAM NACSのソロプロジェクト「5D-FIVE DIMENSIONS」の第2弾である『TEAM NACS Solo Project 5D2 -FIVE DIMENSIONS II-』が2023年から再びスタートした。 【写真】安田顕×林遣都の鬼気迫る表情が 『死の笛』ゲネプロ写真 TEAM NACS 5人の中で最後となる安田顕が企画・プロデュースする二人芝居『死の笛』が7月5日からスタートするのを前にして、7月4日に草月ホールで公開ゲネプロが行われた。 共演は、実力派俳優・林遣都。脚本を、安田が出演してきた『問題のあるレストラン』(フジテレビ系)や『初恋の悪魔』(日本テレビ系)、『クレイジークルーズ』(Netflix)などの坂元裕二が書き下ろした。また、日本テレビを中心に、数々のドラマを手掛け、『Mother』『Woman』『anone』『初恋の悪魔』など、坂元作品の演出でも知られる水田伸生が演出を手掛けたと聞けば、日本のドラマ好きは注目せずにはいられないだろう。 舞台『死の笛』は、初日を迎えるまで、安田と林の2人がスーツ姿でベンチに座るポスタービジュアル以外は一切が謎に包まれていたが、ついにその全貌が明らかになった。 舞台上には天井からつるされた無数のひも状のものがはためき、それが鬱蒼とした森を表しているのだとわかる。安田演じるとある人物はその森の中の左半分にある炊事場で、キャベツやゴボウを切り刻んでは、鍋に放り込む。ときにキャベツを自分の子どものように抱きかかえる場面もあるが、これには理由があった。彼は、何者かに娘を殺された過去があり、その復讐を胸に毎日を生きていたのだった。 やがて森の右半分の炊事場には、林遣都演じる人物が現われ、野菜を運んできて作業をしていた。彼らの間にはフェンスがあり、背後には建物がある。境界線があるのは、戦時中であるからであり、彼らは敵の陣営同士の炊事係なのであった。 敵同士ではあるが、同じように一日を過ごす中で、2人は不思議な交流を始める。韓国映画好きならば、『JSA』で38度線を境に北(ソン・ガンホ)と南(イ・ビョンホン)の軍人たちが交流するあの様子を思い出すのではないだろうか。 2人の間には、ともすれば子どものように無邪気なコミュニケーションが生まれ、緊迫した空気の中で、徐々に笑いの部分も増えていく。 ただ不思議なのは、彼らの言語が、お互いに少しずつたどたどしいところであった。 2人は、一日ですっかり仲良くなるが、林の演じる炊事係が持っていた「笛」がきっかけで不穏な出来事が巻き起こっていく……。この笛は、あるときには音が鳴らないが、あるときには音が鳴る。その音が鳴ったとき、それを吹いたものは亡くなってしまうという話を林の演じる炊事係は偉い人から聞いていたのだった。 林演じる炊事係には、ほのかに思いを寄せる‟リップルさん”という存在がいた。彼女に少しでも近づけるよう、安田演じる炊事係は、彼にダンスを教える。このダンスは、‟リップルさん”との距離を近づけるための練習の意味合いを持つが、踊っている2人の距離を確実に近づけているのが観ていてぐっとくる。 ダンスの練習を追えて、林演じる炊事係は‟リップルさん”の元に行くために森の外に出る。しかし、その外出中に悲劇は起こる。安田演じる炊事係が、例の「笛」を吹いてしまうからだ……。この「笛」の音は、まるで誰かの悲鳴のようであった。 多くの坂元作品がそうであるように、ここから先の展開は詳しく書かないで、新鮮な気持ちで観たほうが楽しめるだろう。それくらい、予想もつかない展開が次々と訪れる。 彼らの暮す森の様子や、戦争中の彼らの様子も、決して身近なものではないのに、ふたりの炊事係が自らも知らない「謎」を追っていき、彼らに課せられたものが何なのかを見ていくと、現実社会にもつながっているような感覚がもたらされるところもある。それがわかってくると、温かさとともに怖さも感じられる作品であった。
西森路代