1日5回の食事…「松屋」の定食完食に50分…160cmの小兵が挑んだ過酷な“食トレ”「最後に胃が壊れた」
肉体改造のために頼ったのはボディービルダー
昨年大みそかの敗戦後は休養を挟んだのち、約6か月間の体作りに時間を当てた。体を大きくするために力を借りたのはその道のプロであるボディービルダーだ。 「たくさんお金と時間を使っていろんな人に頼りました。経験値とボディービルに徹する競技愛、アンチドーピング。この3点で木澤大祐選手の元へ行きました。名古屋にいるので、そのジムの近くに2週間近く住み込みましたね」 この2週間は格闘技の練習はしていない。名古屋で毎日専門家と1時間半から2時間、パーソナルトレーニング。あまりの強度にトレーニング後、半日で筋肉痛が襲ってくる。特に足は深刻で太ももに力が入らない。少しの段差でも膝が抜けてしまい倒れてしまう。歩くときは膝を一切曲げず、両足をするように引っ張っていた。 痛みや恐怖と戦っている格闘家が「本当に地獄みたいな時間」と言うほどハードだった。東京に戻ってからはパリ五輪柔道金メダリスト・阿部一二三のフィジカルトレーナーを頼り、名古屋で学んだものと合わせて継続した。 「人間の限界値、自分のキャパシティーを知れました。ハーツ(MMA練習)に戻ってきてからも自分の標準が上がったと感じました。つらいなと感じる瞬間があっても『これはまだ限界じゃない』と知れたのでトレーニングキャンプ的にもこれが良かったです」 ボディービルダーに触れて知ったすごみ、それは「1レップ(回)に込める魂」だ。 「自分と勝負する覚悟。1レップに対する気合いが本当にすごいなと。あの人たちって先週の自分と戦っているんですよね。あの人たちは○キロ×○回って毎回記録を取っているんですが、翌週は絶対キープかそれを超えないといけないんです。でも毎回限界なんですよ。120%を出した先週の自分と毎回勝負しなきゃいけないんです。そういう強さを学びましたね」 栄養補給、食事も苦しかった。1回の食事の量は大盛りご飯1杯に鶏肉や豆腐、納豆、卵、魚などだが、大変なのはこれを1日5回、3時間おきに摂取しなければならなかったこと。一般人でも余裕で食べられるご飯、みそ汁、焼肉(焼き魚)で構成される「松屋」の定食もなかなか箸が進まず。完食するのに50分もかかってしまった。 「お腹が空いていないけど食べ続ける作業でした。そういう生活を半年ぐらい続けたので最後の最後に胃が壊れたんです。胃が酷使されて休む暇がなかったので逆流性食道炎になって。おにぎり1個食べただけで逆流してくる。胃薬で抑えたりもしました」 こうして60キロだった体重は70キロまで増えた。「太れないやつは1回そういう期間を作んないとダメっすね」としみじみ。過酷な増量期であったが「体重が増えていくのは楽しくて。だから意外とMっ気になっていくんですよ(笑)」と楽しそうに振り返った。 まだフライ級の体ではない。 「増えた筋肉量は500グラムから1キロかなって思っているんですよ。ボディービルダーが食事トレーニング、休養を完璧にこなして増える筋肉量が1年に約2キロと言われています。だから自分は現役生活中にフライ級パンパンの筋肉量を作れたらいいな、ぐらいの気持ちです。なので毎回試合後の休める期間にボディービルダーのようなトレーニング期間を過ごして、またMMAの練習をして試合に向かっていくっていうサイクルを組んでいくつもりです」 ストロー級にはもう戻らない。「体重が減るとメンヘラになるんすよ(笑)。大切に大切に育てたやつら(筋肉)が削れちゃったら『マジ何のためだったの』って思うわけです。ボディービル脳になりますね」と笑いつつも覚悟を感じさせた。 フライ級で課題となるフィジカル差は埋まりつつある。それと同じくらい大きな収穫となったのはボディービルダーの精神力。新たな「強さ」を手に入れた「RIZINの小兵」の躍進劇はこれから始まろうとしている。
島田将斗