出社回帰で増える喫煙所難民 近隣の苦情放置すれば企業にリスク
JTの分煙コンサルティング活動では、必要に応じて現地まで赴き対応策を練る。例えば「分煙キャビン」と呼ばれる専用ブースの設置を勧めたり、換気状況が法的基準を満たすかどうかの確認をしたりする。社会環境推進室の森末雄人課長は「人事部や総務部の方々は切実な悩みを抱えている」と明かす。 ●オーラルたばこに注目集まる ただ、中小企業などでは対策のための予算を確保できないことも多い。厚生労働省の22年の調査によると、20歳以上の男女でたばこを習慣的に吸っている人の割合は約15%。たばこを吸う一部の社員のために百万円単位の設備投資をすることは、妥当性に乏しいと判断されやすいためだ。 こうした状況を受け、英ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)は独自のアプローチで企業の悩みに対応する。日本で20年に発売した「オーラルたばこ」の企業向け普及活動を23年末から無償で始めた。 オーラルたばことは、たばこの葉や香味料などが詰まった小さな袋を唇の裏に挟んでニコチンを摂取する嗜好品。煙や臭いが出ないため改正健康増進法の適用外となっており、オフィスや電車の中でも使うことができる。新たな喫煙所をつくることは難しくとも、社内の喫煙者たちがオーラルたばこに乗り換えてくれれば喫煙所不足を緩和できるということだ。 普及活動では企業の会議室などを数時間借りて、興味を持った社員が訪れたらBATの担当者が10分ほどで商品を紹介するという流れを取る。日本でオーラルたばこの知名度は低いものの、使い勝手の良さから「まずは試してみたい」といった肯定的な意見をもらうことが多いという。人事部向けの展示会などで周知したところ、想定を超える反響があり既に数十社ほどに出向いた。 ミント味やベリー味など、11種類のオーラルたばこを国内で展開する。煙を吸わないため、紙巻きたばこと比較すると健康への影響が小さくなる可能性があると考えられている。BATジャパンの横手和男氏は「場所を選ばないオーラルたばこが普及すれば、たばこ休憩のために席を外す必要もない。吸う人と吸わない人の不公平感の解消にもつながる」と期待を寄せる。 健康経営、労働生産性の観点から、企業は従業員の禁煙を促進することが望ましい。喫煙しない人との公平性を考えても喫煙所設置のコスト負担や喫煙している時間についての扱いには疑問が残る。だが、目下の課題として喫煙所を無くして社内の喫煙者を閉め出すことは現実的ではない。喫煙所設置のコストは喫煙者が分担して負担することやオフィス周囲に喫煙所を確保し、喫煙に時間がかかる場合は休憩時間に含めるといったさらなる取り組みが求められる。
朝香 湧