「愛犬というのは愛が犬のかたちをしているという意味です」つづ井さんが描く老犬との愛しい時間
「しっぽをふっている=うれしい」は本当?
――動物とこんなふうに理解しあいながら共生することができるんだなと思う一方で、言葉が通じる人間同士でもこんなにていねいに接しているだろうかと反省したりもしました。特に描きたかったエピソードは? つづ井 特に描きたかったのは2つ。まず、一番描きたかったのが「老犬と感情」です。「犬はしっぽをふったらうれしいといわれてるけどそれって本当?」と悩み続けていて。 ――その疑問を出発点に、長く一緒にいるうちにAの感情を感じ取れるようになってきたことが描かれたエピソードですね。 つづ井 もう一つが最後の方の「老犬と愛情」です。私からAに対して愛情表現をしたいけれど、どうやったら伝わるんだろうと悩んで。人間なら抱きしめるとか「大好きだよ」とかなんですけど。それで、Aが私にしてくれる「頭ぐりぐり」をしたら、喜んでくれているような気がしたんです。この2つはとても描きたかったですね。 同じ言葉を持たない犬と人間という関係だけど、長く過ごしてると「気持ちが伝わったんじゃないか」とか、「今心が通じ合ってるんじゃないか」と思い込ませてくれる時間があった……という、どちらも同じような地味なエピソードなんですけど、Aと過ごした時間の中で、このことがすごく印象に残っているので。これからも忘れたくないし、絵日記に残せてとてもうれしいんです。 ――地味なようでとてもドラマチックです。「こんなに穏やかに一緒の空間で過ごしておれるのってすごいことやない?」というセリフがありますが、本当にすごいことです! つづ井 居心地がいいと思ってくれてるのかなと思って。 ――ただそばにいて「一緒に過ごす」だけが居心地いいって最上位の関係ではないでしょうか。 つづ井 これが私の中で犬と暮らしたときの一番うれしかったことです。この先も一番思い返すんだろうなと思います。
別の生き物と暮らすおもしろさ
――Aちゃんが脱走しちゃったエピソード、「老犬と冒険」も微笑ましかったです。ひとりで外に出たことのない犬が遊びに行っちゃうなんて! つづ井 何年一緒にいても「えっ、そんなことするんや」っていう意外なことが毎日のようにあるんですよね。別の生き物と暮らすおもしろさを実感します。 ――人間でも「この人はこんなことしない」と勝手に思ってるだけなのかも、と考えたりしましたね。ちょうちょを追いかけるAちゃんの背中にそんなことを思って。本当に深い作品です。 つづ井 今でもたまにこのときのことを家族と話すんです。「こんなことする子だったんだ」って。みんな、不思議なエピソードとして感じてたみたいで。いい思い出です。 ――Aちゃんとのドラマがたくさん詰まっていますね。つづ井さんが高校生の頃、Aちゃんが子犬を見つけた話といい。 つづ井 この話も、いつかどこかで描きたいなと思っていたんです。特別オチがある話でもないんですが、好きな思い出なのでこのタイミングで描けてよかったです。 ――犬のちょっとした動作や反応も細かく描かれていて、読んでいて愛おしくなってきます。完全にご自身の中に姿が記録されているんでしょうか? つづ井 自然に目に浮かぶというか……。そう言われるとそうなのかも? 疑いもせずに描いてましたけど。