米議会がようやく決定したウクライナ追加支援、戦況に与えるインパクトはどれだけか
(国際ジャーナリスト・木村正人) ■ ウクライナは追加支援を賢く使え [ロンドン発]米議会が610億ドル(約9兆7000億円)のウクライナ追加支援を承認した。これについて、英国の戦略研究の第一人者、キングス・カレッジ・ロンドンのローレンス・フリードマン名誉教授が英紙フィナンシャル・タイムズ(4月27日)に寄稿している。 【写真】ミサイルを発射するNASAMS防空システム 昨年10月以降、ロシア軍はウクライナから583平方キロメートルの領土を奪い、この春以降に予想される新たな攻撃作戦に備えている。 フリードマン氏は≪ウクライナ、プーチン双方にとって米国の追加支援は何を意味するのか≫と題して「キーウは被占領地の解放を試みる前に新たな資源を注意深く使わなければならない」と慎重な見方を示している。 米国からウクライナへの武器弾薬の供給は米下院共和党の反対で今年初めにいったんストップした。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は「ウクライナは戦争に負けるかもしれない」と米欧に対して危機感を訴え、大砲の弾薬と防空システムの不足を強調していた。 英シンクタンク「英国王立防衛安全保障研究所」(RUSI)によると、ウクライナ軍は砲弾を配給制にし、1日2000発発射。これに対し、ロシア軍は5倍の1日1万発の砲弾を発射している。 ロシア軍は国内の軍需工場や北朝鮮から年間300万発近い砲弾を調達する。さらに古い爆弾を滑空爆弾として活用し、前線のウクライナ軍に致命的な打撃を与えている。
■ 弾薬不足のまま戦場に送られる心配がなくなる ジョー・バイデン米大統領は米下院の承認を受け、防空ミサイルシステムのパトリオットとNASAMS、大砲、弾薬、装甲車をウクライナに送り始めた。欧州連合(EU)は今年2月、ウクライナへの500億ユーロ(約8兆5000億円)の追加支援を決定している。 英国も今年、30億ポンド(約5900億円)の軍事支援を行う方針だ。 EUは今年3月初めまでに100万発の砲弾をウクライナに送る目標を達成できなかった。チェコは代わりに北大西洋条約機構(NATO)とEUの加盟国18カ国がEU域外から口径155ミリメートルと122ミリメートルの砲弾80万発を購入してウクライナに提供する枠組みを主導する。 「ウクライナの新兵が弾薬不足のまま戦場に送られる心配がなくなり、兵員不足の問題も緩和されるはずだ。米国の軍事支援が再開し、ウクライナは何の懸念もなく備蓄分の弾薬を使える。これでロシアの攻勢を押し返せるというよりは、減速させる可能性が高い」(フリードマン氏) ゼレンスキー大統領は18~60歳のすべての男性に対し、ウクライナ軍への登録と登録書類の常時携帯を義務付ける法律に署名した。法律は5月中旬に施行される。海外に居住する兵役年齢の男性を帰国させるため、国外の領事館でパスポートの更新などのサービスを停止した。