「今までの石原さとみ」壊してもらい「新たなスタート」
女優・石原さとみ(37)が、主演映画「ミッシング」(公開中、吉田恵輔監督)で新境地を切り開いている。22年4月に第1子出産を発表後、初の女優復帰作に「自分の中で確実に転機となる作品」と胸を張る。“華”のある存在だが「それが邪魔だなと思うこともあった」と苦悩があったことも吐露。女優として第一線に立ちつつ、母として家庭を守る矜持(きょうじ)も語った。(増田 寛) 吸い込まれそうな瞳、つやのある唇、ハツラツとした声に引き込まれる。画面に出てくるとパッとシーンが華やかになるのと同じく、石原はインタビューでも人を引きつける魅力にあふれていた。現在、ドラマやCMなどで見ない日はない。売れっ子女優の代表格となっている。 「色々な仕事をさせてもらい、本当に多くの夢をかなえさせてもらいました。10代の時に見てたドラマの世界に憧れてもいましたし、当時はそういう作品に出るのは夢でした」 2002年に第27回ホリプロタレントスカウトキャラバンでグランプリを獲得し芸能界入り。03年に「わたしのグランパ」で映画デビューし、報知映画賞新人賞をはじめ、新人賞を総なめにした。さらに同年、NHK連続テレビ小説「てるてる家族」のヒロインを務めるなど、デビューから輝かしい世界を歩んできた。 ただ、石原自身は納得していなかった。「夢が一気にかなってしまいました。いろんなお仕事をできるのも、すごくうれしかったです。幸せでした。ただ、華があると言っていただけるのはうれしいですが、その華が邪魔をしているなとも感じてました」。言葉を選びつつ、あふれる思いは止まらなかった。 「ファッショナブルでエンターテインメントの要素が強い作品が多かった気がします。役者としてもアウトプットの時間が多く、反対にインプットする時間が少なくて。30代に入る辺りから焦ってました。今までの自分を壊してほしかったです」 女優としての焦燥感が募る中、世界を変えてくれたのが、「ヒメアノ~ル」「空白」などで知られる吉田監督の作品だった。ギリギリな状況に追い込まれた登場人物たちを生々しく表現し、“人間描写の鬼”と評される個性派監督に「私を変えてくれるかもしれない」と希望を抱いた。 「本当に衝撃を受け、監督の世界に行ってみたくなりました。ジーっと待ってたら絶対にオファーなんて来ないなと思って、7年前に監督に直談判しました」 ツテを頼って吉田監督との会食にこぎ着けたが、「石原さんは華があるから苦手」と一度は断られた。「また華が邪魔をして…。でも、どうしても当時の石原さとみを壊してほしくて仕方なかったんです」。そこから3年は音信不通だったが、突然、監督から「脚本を書きました」と連絡があったという。 「絶対に私ではかすりもしない脚本だったと思います。ギャンブルのような試みなのに、私に懸けてくれました。私に『一緒に挑戦しよう』って言ってくださり、うれしかったです」 監督が石原の産後を待ったタイミングで撮影が行われた「ミッシング」。娘の失踪事件をきっかけに、さまざまな情報に翻弄(ほんろう)されていく母親を演じた。「宝のような作品で、奇跡のような撮影現場でした」と目を輝かせる。 「妊娠出産を経て、実際に母親になって、自分の命よりも大切な存在が誕生してからの撮影。本当に奇跡的なタイミングです。母になって脚本を読むと、涙でページがめくれなくて…。現場でもなかなか監督のOKが出なくてパニック状態でした」と“生みの苦しみ”にもぶち当たった。 劇中の石原はボサボサの髪の毛、薄いメイクで、トレードマークの唇も荒れている。「華」とはかけ離れた役に体当たりで挑んだ。 「実際に産後はボロボロだったんです。髪の毛も抜けるし、シミやソバカスも増えるし、骨盤がゆがんで、体もゆるみ、栄養も子供に全部取られてしまいました。自分のことよりも第一優先が子供。役者からものすごく離れてたから大変で」 自らの膝を見つめながら苦難を語り終えると、前のめりになり、パッと表情が明るくなった。「でも私、母親ですから。その母の覚悟で乗り越えられました。子供が風邪を引いても感染しにくくなったし、少しのことではへこたれなくなりました。私も強くなりました。役者と子育ての両立は大変ですけどね!」 新境地に踏み込んだという自負も生まれた。「新たなスタートです。産後のスタートっていうのは、自分の中でやっぱりこう、育児との両立っていうものが本当に大変だったことも分かりました。作品をしぼって、より一層身を削る思いでいかないと、家族にも現場にも迷惑がかかってしまう。今後はとてつもなく覚悟が必要だと思います」 新たな夢もできた。「吉田監督にまた仕事したいですと言ったら『今回の作品で今までの石原さとみを壊せたけど、ここから作り上げたイメージをまた10年後に壊しにいく』って言ってくださって。監督に壊されるぐらいの新たな石原さとみ像を作れたらいいな」。女優として母として、大きな一歩を踏み出した。 ◆石原 さとみ(いしはら・さとみ)1986年12月24日、東京都生まれ。37歳。2002年、ホリプロタレントスカウトキャラバンでグランプリを獲得し芸能界入り。03年に「わたしのグランパ」で映画デビューし、6つの新人賞受賞。同年、TBS系「きみはペット」で連ドラ初出演。現在、テレビ朝日系主演ドラマ「Destiny」が放送中。身長157センチ、血液型A。20年結婚。
報知新聞社