『ブギウギ』はなぜ大切な人たちの死を描いてきたのか “混ぜこぜ”の前半戦を総括
愛助(水上恒司)も「死の匂い」と隣り合わせの人生を歩んできた
六郎を亡くしたショックで歌えなくなってしまったスズ子のために、羽鳥は「大空の弟」を書き下ろす。「○○部隊」の一兵卒ではないのだ。たったひとつの、かけがえのない六郎の命なのだ。その思いが刻みつけられた「大空の弟」を通じて、受け入れ難い六郎の死を、スズ子と梅吉はゆっくりと理解していった。歌はグリーフケアにもなり得るのだということが、見事に描かれていた。 スズ子の大ファンから恋人になった愛助(水上恒司)は、現在放送中のエピソードでは小康状態にあるものの、結核を患っている。演芸業界最大手・村山興業の跡取り息子として将来を嘱望されながらも、幼い頃から病弱だった愛助は、エンターテインメントに力をもらいながら生きてきた。スズ子に打ち明けた「笑い転げとったら、なんとか今まで生きてこれたいう感じです」という言葉から、愛助もまた、常に「死の匂い」と隣り合わせの人生を歩んできたことがわかる。そして、スズ子の歌に生きる希望をもらってきた愛助が、今度はスズ子に「歌って生きる道」を歩み続けるよう、背中を押す。 生と死が混交する「うねり」の中で、スズ子は何があっても歌い続ける。物語後半では、戦後の日本を歌で元気づける福来スズ子の奮闘が描かれる。歌は一方通行ではない。戦時中、慰問先のステージでスズ子は言った。「皆さんの拍手がワテの力になります」。生きる力を与えて受けてを繰り返し、共鳴して、スズ子の歌は育っていく。歌うことは生きること。生きることは歌うこと。かつて羽鳥がスズ子に言ったこの言葉が、『ブギウギ』の「生きているということ」なのだろう。 「これからもきっと人生はいろいろある。まだまだこんなもんじゃない。嬉しいことも辛いこともたくさんあるよ。だから嬉しい時は気持ちよく歌って、辛い時はやけのやんぱちで歌う。僕たちはそうやって生きていくんだよ」
佐野華英