北海道・朱鞠内湖ヒグマ襲撃から1年 再発防止へ釣り客にルール 浸透道半ば
上川管内幌加内町朱鞠内湖で釣り客の男性がヒグマに襲われ死亡した事故から、14日で1年となった。湖畔では事故後、電気柵や監視カメラの設置が進み、釣り客ら向けの独自対策「朱鞠内湖ルール」も設けて再発防止を進めた。だが、ルールは強制力がなく、浸透も道半ば。道内では注意の周知や啓発をしていない湖畔も散見され、事故の教訓が広く生かされているとは言えないのが現状だ。 【動画】ヒグマが車両に突進 フロントガラス割れる けが人なし 根室 今月2日の朱鞠内湖。前日に今春の釣りが解禁された湖西側の湖畔で20人ほどが釣り糸を垂らしていた。大半の釣り客は腰にクマよけの鈴を下げ、黙々とさおを振るたび、「カラン」「リーン」という音が響いた。 横浜市から1人で訪れた会社員谷川由祐さん(48)は朱鞠内湖ルールに従い、クマよけの鈴や撃退スプレーなどを所持し、「クマは怖い。できる限りの対策をした」。対岸はより釣果が見込める場所もあるが、渡船は複数人がルール。「リスクを減らすルールに納得している」と話す。 事故は23年5月14日に発生。渡し船で湖東側の沢に渡り、1人で釣りをしていた男性がクマに襲われ死亡した。現場付近にいたクマは駆除され、推定年齢3歳の雄だった。現場は見通しが良く、クマは好奇心で人に近づく若い個体だったとみられる。元々クマが生息する地域で、見かけても通報しない人が多く、事故の5日前に人を見ても避けないクマの目撃があったが、地域で共有されなかった。 事故後、同湖で遊漁事業を運営するNPO法人シュマリナイ湖ワールドセンターは同年9月、釣り人にクマよけの鈴の携帯などを求める朱鞠内湖ルールを策定。渡し船は複数人で申し込みがあった場合に限り受け付けるようにした。 ただ、事故から1年がたつ中、知人と2人で湖畔に来た札幌市の30代男性は鈴などは持っていなかった。「事故が起きたのは渡し船で行く対岸。湖畔は視界が開け、スプレーや鈴がなくても大丈夫と思った」という。 ルールは強制力がなく、従うか否かは釣り客の判断に委ねられている。同法人の中野信之理事長(49)は「ローカルルールなので、安全対策の意識を高めてもらうよう、お願いするしかできない」と話す。 同法人は湖畔周辺へのクマの侵入を防ぐ対策も進めた。昨年8月までに湖周辺の約50カ所に監視カメラを設置し、職員が定期巡回して画像を確認している。クマを近づけない電気柵も張り巡らせた。釣り客にクマのふんや足跡などの情報提供を呼び掛け、得た情報は職員が口頭やウェブサイトを通じて周知している。