シリアの化学兵器問題 今どうなっているの?
化学兵器禁止機関(OPCW)が、7月初頭までにシリア国内に残っていた化学兵器の最終分の国外搬出作業を完了したと発表しました。これでシリアが申告した化学兵器は全て処理されることになります。
「核」の代わりに大量の化学兵器を貯蔵
シリアは核兵器で武装したイスラエルと長年にわたり敵対してきました。シリア自身も核兵器の開発に手を染めたのですが、成功しませんでした。北朝鮮の支援でシリアに建設中であった原子炉が2007年イスラエル空軍の爆撃で破壊されました。 代わりにシリアは大量の化学兵器を製造し貯蔵してきました。「貧者の核兵器」としても言及されるように化学兵器は比較的に製造が簡単で貯蔵も容易です。核兵器によって攻撃された場合には化学兵器で報復する戦略でした。
シリアは化学兵器を使ったのか?
化学兵器が内戦で使用されるのではないかとの懸念がありました。また化学兵器が反政府勢力の手に落ちるのも心配です。散発的に少量が使われたとの断片的な報道がありました。アメリカのオバマ政権は、化学兵器の使用は越えてはならない線であると宣言していました。この線つまりオバマ大統領の言葉では「赤い線」が越えられれば断固たる措置を取ると言明していました。 2013年夏に国連の調査団がシリアに入国している際に大規模な化学兵器の使用が起こりました。国連の調査団自体は、誰が使用したとは判断を示しませんでした。しかしアメリカなど各国はシリア政府を非難しました。調査団が訪問中に化学兵器をシリア政府が実際に使ったのでしょうか。どうも政府は使用を命じたわけではないが政府側の部隊が戦場で独断で使用したようです。以下のような背景がありました。つまり、この時期に政府を支持する地域が反政府側に制圧され住民が虐殺される事件がありました。これに対して政府軍の部隊が報復で化学兵器を使用したのです。
米国民の厭戦気分でオバマ政権は動けず
いずれにしろシリア政府が赤い線を越えた以上、オバマ政権は動かざるを得ませんでした。オバマ大統領はシリアを爆撃する決断を発表しました。同時に、アメリカ議会の支持を、その前提としました。ところがイラクとアフガニスタンの戦争で疲れた国民の厭戦気分を意識して、議会ではシリア攻撃に賛成の声は弱かったのです。議会の支持がなく、攻撃を開始できない状況にオバマ政権は陥りました。 この段階でシリアのアサド政権を支持してきたロシアが仲介に乗り出しました。ロシアの調停により、シリアは化学兵器の廃棄に同意しました。この合意が実施に移され7月初めに完了したと報道されたわけです。
すべての化学兵器が搬出されたのか?
だが膨大な量の化学兵器を保有していたとされるシリアが、すべての化学兵器を申告したかどうかは、確認するのは困難です。 いずれにしろシリアは化学兵器の廃棄を受け容れてアメリカの攻撃を避けました。アメリカも、世論の嫌がる軍事介入を避けました。アメリカがアサド政権を倒してくれると期待していた反政府勢力とサウジアラビアなどの周辺諸国は失望しました。 (高橋和夫・放送大学教授)