<甲子園交流試合・2020センバツ32校>磐城、やりきった エース粘投、好守連発 /福島
2020年甲子園高校野球交流試合(日本高校野球連盟主催、毎日新聞社、朝日新聞社後援、阪神甲子園球場特別協力)は第4日の15日、兵庫県西宮市の阪神甲子園球場で行われ、今春のセンバツで21世紀枠に選出された磐城(いわき市)は、国士舘(東京)に3―4で惜敗した。センバツ中止から約5カ月。憧れの夢舞台に立ち、最後まで全力で戦い抜いた選手たちにスタンドの保護者や学校関係者からは温かな拍手が送られた。【磯貝映奈】 【真夏の熱闘】交流試合の写真特集はこちら 1点を追う九回表、一塁側スタンドからは保護者や学校関係者の拍手が響く。2死まで追い込まれたが、「まだまだここから!」というベンチからの声援に後押しされ、樋口将平選手(3年)が放った打球は左前へ。昨秋レギュラーだった樋口選手は、この日、途中出場だったが、土壇場で意地の一打を放ち、一塁側はこの日一番の盛り上がりを見せた。ここで代打に選ばれたのは柳沢諄選手(2年)。「3年生に勝利を」と打席に立ったが、バットが空を切った音とともに試合の終わりを告げるサイレンが鳴った。 先発を任されたのはエースの沖政宗投手(3年)。最初の打者にいきなり二塁打を浴びたが、持ち前のコントロールと打たせて取る投球で後続を断ち、順調な立ち上がりを見せた。二回表には、岩間涼星主将(3年)が四球で出塁すると、小川泰生選手(3年)がチーム初安打を記録。首藤瑛太選手(2年)の内野ゴロの間に先制した。その後、沖投手の中前適時打で追加点を挙げ、打線も好スタートを切った。 しかし三回、国士舘の強力打戦が本領を発揮。沖投手が打ち込まれると、守備の乱れも重なり勝ち越しを許してしまう。だが好機は再び訪れる。六回表、市毛雄大選手(3年)の中前打などで2死一、二塁とし、打席には草野凌選手(3年)。3球ファウルで粘ると、7球目で同点の中前適時打を放ってみせた。ガッツポーズを見せた草野選手の父恭司さん(47)は「あの一打でいろんな感情がこみ上げてきた。涙ものでした」と振り返った。本塁にすべりこんだ市毛選手は「アウトかもしれないと不安だったが、貴重な1点。恐れず突っ込んでよかった」と話した。息子の雄姿を見守った父芳幸さん(53)は出発前夜、自宅の庭でティー打撃の相手を頼まれた。「あの時は緊張しているように見えたが、いい顔をしてプレーしていたのでよかった」とうれしそうだ。 喜びはつかの間、その裏に勝ち越されてしまう。だが本調子ではない中でも粘り強い沖投手の投球にバックが好プレーで応え、七、八回は追加点を与えなかった。最終回も好機を作ったが、一歩及ばなかった。 最後まで「Play Hard」の精神でで戦い抜いた磐城ナイン。悔しさはあるものの、晴れやかな表情で夢の聖地を去った。 ◇「選手の姿に感動」 ○…一塁側スタンドには、阿部武彦前校長、木村保前監督、大場敬介前部長がそろい、教え子たちの晴れ舞台を見守った。六回、打てば同点の好機に、阿部さんが拍手で応援し始めると、自然と保護者へ広がった。「気づいたら手をたたいていたが、選手たちの後押しになったのならうれしい」と話し、「臆せず戦い抜く姿は素晴らしかった。ナイスゲームでした」とねぎらいの言葉をかけた。千葉県に転任した大場さんは、選手たちと約5カ月ぶりの再会だった。「いろんな葛藤があったと思うが、誰一人欠けることなく、甲子園で終われたことがよかった。木村先生といろいろ話しながら試合を見ているとベンチの中にいるみたいで懐かしかった」と話した。試合前にノッカーを務めた木村さんは「コバルトブルーの選手たちのひたむきな姿、躍動する姿に感動しました。選手たちには、これまでの道のり、今日の経験を糧にして、これからの人生に生かしてほしい」とエールを送り、宿舎でノックに使った「磐城高校 Play Hard」の文字入りボールを3年生全員に手渡した。 ◇校内で生徒応援、全力プレー称賛 新型コロナウイルスの影響で、甲子園での応援がかなわなかった磐城高校の吹奏楽部や応援団などの94人が体育館に集まり、スクリーンに映し出された選手たちを応援した。 声を出さない▽座席の間隔を空ける▽換気をする――などの感染対策を事前に確認。選手ごとに作った応援歌を事前に録音し、各選手の打席で流した。磐城が二回無死満塁のチャンスから2点を先制すると、メガホンをたたく音が響いた。 1点差で惜敗したが、会場からは両校の選手をたたえる拍手が送られた。斎藤悟史教頭は「全力プレーを体現してくれた。胸を張って帰ってきてほしい」と称賛した。 磐城高の正門前で食堂兼商店を営む磐城高校OBの佐々木建一さん(67)も自宅のテレビの前で声援を送った。「できれば球場で応援したかったが、選手たちは最高の試合を見せてくれた。勝敗よりも、自分たちのプレーを最後までできたことが重要」と喜んだ。【肥沼直寛】 ……………………………………………………………………………………………………… ■ズーム ◇最高の仲間に感謝 磐城・沖政宗投手(3年) 「最後までマウンドに立たせてもらえるくらい、みんなが全力で守ってくれた」。チームの大黒柱としてセンバツ21世紀枠選出に貢献したエースは、試合後、真っ先に仲間への感謝を述べた。「次1点取られたら代えるぞ」。そう伝えられ、送り出された七回裏。1死二塁と予断を許さない状況だったが、樋口将平選手の右翼からのレーザービームと岩間涼星主将のクロスプレーで救われた。岩間主将に背中を2回たたかれたエースは「頼もしい仲間だと思った。伝統の磐城の1番をつけるからには抑えないといけない」。最後の打者を三振で抑えるとほっとしたように息を吐いた。 7月のテスト後から調子を落とし、万全の態勢では挑めなかった今大会。調子が上がらず、登板すらできないかもしれないという不安もあった。そんな時、仲間たちは「沖のために打つ」と奮闘してくれた。目標としていた甲子園での勝利にはあと一歩及ばなかったが、打線の援護、手堅い守備が心強かったという。 「磐城で甲子園に行く」という夢のために白球を追い続けた2年4カ月。「甲子園で終われたことに感謝。先生方や最高の仲間に出会えて幸せでした」【磯貝映奈】 ……………………………………………………………………………………………………… ▽第2試合 磐城 020001000=3 国士舘 00300100×=4