「年を取るとミスが増える…」羽生善治が生み出した、絶対に「若い人に負けない」方法
「iPS細胞技術の最前線で何が起こっているのか」、「将棋をはじめとするゲームの棋士たちはなぜ人工知能に負けたのか」…もはや止めることのできない科学の激動は、すでに私たちの暮らしと世界を変貌させつつある。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 人間の「価値」が揺らぐこの時代の未来を見通すべく、“ノーベル賞科学者”山中伸弥と“史上最強棋士”羽生善治が語り合う『人間の未来AIの未来』(山中伸弥・羽生善治著)より抜粋してお届けする。 『人間の未来AIの未来』連載第16回 『【山中伸弥×羽生善治】二人の天才が徹底的に語り尽くす、「ブレイクスルー」がもたらすヤバすぎる未来』より続く
羽生善治が語る「直感」
山中 将棋の世界のブレイクスルーといっても、僕らにはなかなかイメージがつかめません。藤井四段がすごいということはわかるけども、どんなふうにすごいかが……(笑)。将棋を指す際、棋士の頭の中ではどんなことが起こっているんですか。 羽生 対局するときに、棋士は最初に「直感」を使います。将棋は一つの局面で平均80通りの指し手があり、これまでの経験から、直感で急所、要点と思われる2、3手に絞ります。 山中 80通りもあるんですか。 羽生 はい。直感といってもヤマ勘みたいなものではなく、いわば経験や学習の集大成が瞬間的に表れたものですね。だから、直感は一つずつ論理的に詰めていけば間違いは少ないのですが、逆に論理を誤れば、正しい結論にたどり着けないことがあります。
羽生善治が語る「読み」
羽生 「直感」の次に「読み」に入ります。未来をシミュレーションするわけです。ここでロジックだけで先を読もうとすると、すぐに「数の爆発」という問題にぶつかります。1手3通りずつ読んだとしても、10手先には3の10乗の6万通り近くになります。最初の直感でほとんどの選択肢を捨てているにもかかわらず、10手先にはもうこれだけの可能性を考えなくてはならなくなります。 実戦では10手先はほぼ予測できません。仮に10手先を計算したとしても、自分が予想していない手を指されて、もう一回そこで考え直すケースがほとんどです。実際の対局は暗中模索で続けていくことが多いですね。逆に自分の思い描いたビジョン通りに進んでいる時ほど要注意です。相手もそれを想定しているということですから。 山中 ああ、なるほど。 羽生 3番目に「大局観」を使います。「桂馬を動かす」といった具体的な一手ではなく、最初から現在までの流れを総括し、先の戦略を考えるわけです。 読みというのは、基本的に論理的な積み重ねの地道な作業ですが、大局観は勘とか感性みたいなものです。「ここは守りに徹する」という大局観があれば、守る選択肢だけに集中して考えればいいわけなので、無駄な思考を省くことができます。