中也記念館で念願の企画展、独特の詩に影響受けた漫画家の浅田さん【山口】
お気に入りは「汚れつちまつた悲しみに……」
中原中也の詩集のカバー画やその詩に影響を受けた漫画「眠兎(みんと)」を手掛けた漫画家、浅田弘幸さん(56)の企画展が、山口市湯田温泉1丁目の中原中也記念館で開かれている。中也への思いや企画展の見どころを浅田さんに聞いた。 神奈川県出身の浅田さんは、1986年に月刊少年ジャンプオリジナル9月増刊号(集英社)でデビュー。代表作は「BADだねヨシオくん!」「I'll~アイル~」やアニメ化もされた「テガミバチ」。国内外で個展を開き活躍している。 中也との出会いは10歳代の頃。古書店で偶然「日本詩人全集22 中原中也」(新潮社)を手にしたのがきっかけ。漫画家になるためにいろいろなものを吸収している時期で「間違いなく大切なものに出合った」と振り返る。読んでみると「やばいぞ。悲しみに焼かれてしまう」と感じた。 同書に収められた詩と日記を読み、中原中也という人物と作品の内容を深堀りしていった。「中也とは友達にはなれないかもしれない」と笑い「破天荒だが、小林秀雄ら友人との関係に見られる繊細さやかわいげもある」と評する。 中也からの影響について「詩を書くように漫画を描いているかもしれない」と語る。一行に何年もかけ、推敲(すいこう)を重ねる中也の詩作は、自身の創作姿勢とも重なる。パソコンで漫画を描くのが主流になる中、手描きにこだわり、何度も細かく描き直して仕上げている。 「中也はアイドルだから、その時々で好きな詩が変わる」と言い、あえて1番を選ぶなら「眠兎」の最終回の前にあえて使った「汚れつちまつた悲しみに……」。「初めて読んだときは意味が分からなかった。どういう意味なのかをすごく考えさせられた。創作することで悲しみを汚した、形にすることで自分の感情を汚してしまったということなのかな。そしてそれが作品になっているということ」と語った。 今回の展示について「どんだけこいつ、中也好きなんだよって感じだ」と笑う。日本に1台しかない超大型プリンターを使い、立体的に印刷した集英社文庫「汚れつちまつた悲しみに……中原中也詩集」の限定版カバー画が最大の見どころ。 中也が見た風景を感じたくて「湯田温泉に帰りたい」が今の口癖だという。「念願の個展が生家跡の記念館でできることは、本当にうれしい。感慨深いに尽きる」と喜びをかみしめていた。 展示の1期では「眠兎」や「I'll~アイル~」の原画、影響を受けた中也関連の書籍を紹介。27日からの2期では中也の詩をテーマにした新作絵本「月夜の浜辺」の原画展示を予定。来年1月26日まで。