〝農政の憲法〟改正案が閣議決定 食料安保確保、基本理念に
政府は27日、農政の憲法とされる食料・農業・農村基本法改正案を閣議決定し、国会に提出した。1999年の制定から四半世紀を経て初の改正となる。食料・生産資材の輸入不安定化や農業人口の急激な減少といった情勢変化を踏まえ、食料安全保障の確保を基本理念に位置付ける。 改正案の審議は2024年度予算成立後の4月以降に本格化する見通し。特に重要な法案として首相が答弁に立つ「重要広範議案」に位置付けられるとの見方が強い。衆院によると、同議案となった場合、農水省提出法案としては15年の農協法改正案以来となる。 政府は同日、不測時の対応を定める「食料供給困難事態対策法案」や農地関連法改正案も閣議決定した。坂本哲志農相は27日の閣議後会見で、「農業者が楽しさとやりがいを持ち、国民に安定的に食料を届ける責務を果たしていく」と述べた。 食料・農業・農村基本法改正案は、食料安保を「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、かつ国民一人一人がこれを入手できる状態」と定義した。食料自給率目標に加え、食料安保に関する複数の目標を新たに設定し、達成状況を少なくとも年1回調査、結果を公表するとした。 食料の価格形成について「持続的な供給に要する合理的な費用」を考慮するとの考え方を新たに位置付ける。費用の明確化など必要な措置を国が講じる。生産資材を巡っては、国内代替物への転換や備蓄支援、著しい価格変動時の影響緩和策を規定する。 農業の担い手は「効率的かつ安定的な農業経営」を重視。一方、「それ以外の多様な農業者」で農地を確保していけるよう配慮する方向性も打ち出した。農地の受け皿として期待する法人の経営基盤強化へ、「自己資本の充実」を促すとする。
[解説]審議尽くし将来像描け
基本法改正案は今後数十年の農政の在り方を決める重要法案だ。生産コストの高止まり、後継者不足に苦しむ農家や産地が明るい将来展望を描けるよう、審議を尽くす必要がある。 近年は日本の購買力低下や気候変動などで食料・肥料原料の輸入が滞るケースが生じ、現行法制定時には想定していなかった課題が表面化。生産者も高齢化を背景に急減する見通しで、食料生産の維持が危ぶまれている。 一方、重要局面にもかかわらず、これまでの農政見直しの論議は盛り上がりを欠く。食料の価格形成など、消費者にも関わるテーマがあるが、国民の関心が高まっているとは言い難い。 政府は基本法改正案など4法案の一括審議を求める。食料安保に関する目標の在り方や価格形成、担い手など論点は多岐にわたるが、十分な審議時間を確保し、深掘りしなければならない。未来に持続可能な農業・農村を残すため、これまでの政策には何が足りなかったのかを総括し、国民各層を巻き込んだ議論を期待したい。(松本大輔)
日本農業新聞