ライヴ映画『ストップ・メイキング・センス』公開中──40年ぶりに観直したトーキング・ヘッズの4人はなにを思ったか
ライヴ映画『ストップ・メイキング・センス』の4Kレストア版が公開中だ。トーキング・ヘッズのメンバー、4人に今の心境を直撃した。 【写真を見る】伝説のライヴをチェック!
ミュージックビデオにあらず
アメリカのパンク/ニュー・ウェイヴを代表するバンド、トーキング・ヘッズ。アフロ・ビートやファンクなど、ダンス・ミュージックのグルーヴをロックに取り入れた独創的なサウンドは、その後のロック・シーンに大きな影響を与えた。彼らが1984年に制作したライヴ映画の名作『ストップ・メイキング・センス』が4Kレストア版となって公開中だ。配給するのは、近年話題作を次々と世に送り出しているA24。『ストップ・メイキング・センス』はトーキング・ヘッズの 83年のライヴを記録した作品で、後に『羊たちの沈黙』でアカデミー賞を受賞するジョナサン・デミが監督を務めた。トーキング・ヘッズのライヴの魅力を、デミは見事な演出で一本の映画にまとめた。日本公開に合わせて、バンド・メンバーのデイヴィッド・バーン、クリス・フランツ、ティナ・ウェイマス、ジェリー・ハリスンが集結。映画とライヴの舞台裏を語ってくれた。 ──映画が制作されたのは40年前ですが、今回、久しぶりに観直して新たな発見はありました? ジェリー・ハリスン この数カ月、何度も観直しているけど、その度に発見があるよ。例えば、アーティスト同士のコミュニケーション。いま目を合わせたな、とかね。カメラが引いた映像だと気づかないかもしれないけど、そういうヒューマンな繋がりがライヴ中にいろんなところで行われているんだ。 ──ライヴにはサポート・メンバーとして、バーニー・ウォーレル、アレックス・ウィアー、スティーヴ・スケールズなど、ファンクやR&Bシーンで活躍していたミュージシャンが参加していますね ティナ・ウェイマス ライヴに参加してくれたメンバーは、みんな素晴らしかった! それぞれに自分の音楽スタイルを持ち込んでくれた。私たちが友人同士みたいに相手のことが大好きで、気持ちよく演奏していることが映画から伝わってくる。それがこの映画が成功した理由じゃないかな。 ──デミはミュージシャン一人一人のキャラクターを見事に捉えていて、それぞれが映画の登場人物のように個性的ですね クリス・フランツ デミは人間を描くことに長けた監督だったからね。ステージに立つミュージシャンは興味深い個性の持ち主ばかりだから、撮影中、デミは大喜びだった(笑)。 ジェリー・ハリスン そういえば、この前、デイヴィッドは〈みんなアンサンブルの演技をしているみたいだ〉って言っていたけど、ロバート・アルトマンの映画みたいなところもある。群集劇っぽいというか、メンバーが一人ずつステージに登場してセッションが始まったりしてね ──まず、何もない舞台にバーンが登場して、ひとりで「Psycho Killer」をギターの弾き語りで歌い、次にティナがベースを持って登場して「Heaven」を歌う。そうやってメンバーがひとりずつ増えて演奏に厚みが出ていって、全員が揃ったところでヒット曲の「Burning Down the House」を演奏するという、実にドラマティックで映画的な構成です デイヴィッド・バーン 映画のためにこういう構成にしたの?ってよく聞かれるけど、もともとこういう構成のライヴだったんだ。でも、映画を観るとライヴに何か隠された物語があるように思える。映画を通じて、そのことに気づいたのは面白かったよ ティナ・ウェイマス デミはその物語性に強く惹かれていたみたい。実際に物語があるかないかは関係なくて、ライヴを見る人がどう感じるかが大切だと思う ■映画館で踊ろう ──バーンさんのユニークな動きはダンスのパフォーマンスみたいで、ロック・ヴォーカリストの動きとは全く違いますs。そうした身体表現からも想像力を刺激されました。 デイヴィッド・バーン ダンスは大好きなんだ。例えば宗教で信者がトランス状態になっている時の動きを振り付けに取り入れたりもする。それって僕らが音楽をやっていて、心が浮き上がっているような状態に近い感じがあるからね。当時、住んでいたロフトで曲を流して鏡を見ながらいろんな動きを試してみて、どんな動きがカメラ映えするのかを研究したりもしていたんだ。デミはステージを正面から撮ることに興味を持っていたから、それだったらシンメトリーな動きが良いんじゃないかって考えたりしてね」 ──撮影カメラは時にはステージに上がってバンドと共演しています。それが映画に臨場感を生み出していますね ジェリー・ハリスン この映画には、プレイヤーと観客の関係性が描かれている。カメラがミュージシャンに近寄ることで、観客は演奏に参加しているような感覚が味わえるんだ。僕らもカメラとの共演を楽しんだ。あのライヴにはステージ上にモニター(演奏者が自分の演奏を確認するためのスピーカー)を置いていなかった。だからステージは広々としていて自由に走り回ることができたし、観客も僕らの動きを一望できた。それが開放感を生み出していたんだ。 ティナ・ウェイマス ロックのライヴって自分たちをかっこよく見せようとしていることが多いけど、私たちは楽しんで音楽をやっていることを、そこには愛情があることを見せたかった。それをデミがしっかりと映像に捉えてくれたと思う。 ジェリー・ハリスン みんなライヴの前にカッコつけてた? クリス・フランツ ほんの少しね(笑)。 デイヴィッド・バーン 僕はビッグスーツを効果的に見せるポーズを鏡を見ながら考えてた(笑)。 ──みなさん、魅力的でしたよ(笑)。映画からはミュージシャンと観客の一体感が感じられて、その高揚感に引き込まれていく。まさにライヴに参加しているような体験が味わえるので、大勢の人達と一緒に映画館で観るべき作品だと改めて思いました ジェリー・ハリスン 今回、僕がサウンドのリマスターを手掛けただけど、音がどこで鳴っているのかもよくわかるようになったし、それが映画の大きな推進力になっている。IMAXやドルビーアトモスの設備がある劇場だと間違いなくサウンドの良さがわかるけど、そういう設備がない劇場で観ても充分楽しめると思うよ。この前、上映会にゲストに呼ばれて参加したけど、観客はライトステイックを振ったり、ステージに上がって一緒に踊ったりしてすごく盛り上がっていた。日本の観客にも、ぜひ映画館で踊ってほしいな(笑)。 ■『ストップ・メイキング・センス 4Kレストア』 絶賛公開中 配給:ギャガ URL:https://gaga.ne.jp/stopmakingsense/ ©︎1984 TALKING HEADS FILMS
文・村尾泰郎 編集・岩田桂視(GQ)