『ブギウギ』を力強くする菊地凛子の佇まい スズ子をも凌駕する“歌にかける”熱い想い
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』の第21週となる「あなたが笑えば、私も笑う」が放送された。芸能記者・鮫島(みのすけ)の余計な画策のせいで茨田りつ子(菊地凛子)はスズ子(趣里)と対立してしまう。なんだかんだありながらも互いを応援しあってきた2人だけに、視聴者にとっても胸のハラハラする展開となった。 【写真】りつ子(菊地凛子)の紹介でやってきたベテラン家政婦・大野晶子(木野花) 一時は険悪ムードのりつ子とスズ子であったが、互いの誤解は無事に解ける。これをきっかけに、りつ子はスズ子の仕事と育児の両立の思わぬ手助けをすることになる。今週、いつにも増して存在感を見せたのがりつ子だろう。 終戦以来、自身の歌声に納得できない時期が続いたと話していたりつ子。戦争の混乱は人々を苦しめ、誰もが心細い日々を送る中で歌から元気をもらっていた。だが復興が進む中で、人々の興味がよりセンセーショナルなニュースに向いてしまったというのは皮肉なものだ。歌と向き合い、歌を愛する余裕が生まれたとともに、ゴシップや歌手の生き方にまで目が向くようになってしまったのだ。りつ子はそんな世の中に戸惑い、思うような手応えを得られない日々に人知れずもがいていたのだろう。 孤高の人であり、どこか達観したところがあるりつ子は、明るくパワフルなスズ子とは対極にいるキャラクターだ。強い意志とどっしり構えた態度、言葉数は少なく、落ち着いた声で淡々と語る。表情もコロコロ変わるような人物ではないが、心の内に宿る強い意志はキュッと結ばれた口元から滲み出ている。その一方で、歌にかける想いはスズ子や羽鳥(草彅剛)を凌駕する勢いがある。胸に秘めた熱さは人一倍というところだろう。 そんなりつ子が、歌を思うように届けられない焦燥感から鮫島の煽りに乗ってしまい、結果として自分の方からスズ子に謝罪するという姿も視聴者の心を揺さぶった。さらに今回は、スズ子に手を差し伸べ、仕事と育児が両立できるようにと家政婦まで紹介してくれたのだ。こうして手を取り合いながら2人が切磋琢磨していく様子こそが『ブギウギ』の美しさでもある。 りつ子を演じる菊地凛子の佇まいもまた、作品をより力強いものにしてくれている。他者を圧倒させるオーラ、そして真っ直ぐ筋の通った生き様を芝居で表現するには、役者自身の胆力が試される部分も少なからずあったに違いない。りつ子の生き方をここまでストレートにぶつけられる芝居は菊地だからこそ成し遂げられたものだろう。 SNSでは、そんなりつ子とスズ子のやりとりに対し「自分一人でどうにかしようとするスズ子の意志を超えるのはやはり茨田りつ子だった。“義理と人情”ここにあり」、「『女がひとりじゃ生半可ではつとまらない』と家政婦を強制紹介。やるなあ」などの意見が。やはり『ブギウギ』をずっと観てきた視聴者だからこそ、決してわかりやすくはないけれど強い絆で結ばれた2人の関係性に熱いものを感じるという人が多いのだろう。 りつ子との件で、スズ子は益々前を向いてブギで勝負したいという意欲を持った。この出来事さえも糧に、スズ子も、そして羽鳥もまだまだ突っ走ってくれそうだ。それもこれもりつ子がいてくれたからこそ。スズ子とりつ子は互いをかけがえのない存在としつつ末永く活躍を続けてくれることだろう。
Nana Numoto