73歳の「死に方の達人」が見せてくれた、見事すぎる「死にざま」
---------- だれしも死ぬときはあまり苦しまず、人生に満足を感じながら、安らかな心持ちで最期を迎えたいと思っているのではないでしょうか。 【写真】人が「死んだあと」に起こる「意外なやりとり」 私は医師として、多くの患者さんの最期に接する中で、人工呼吸器や透析器で無理やり生かされ、チューブだらけになって、あちこちから出血しながら、悲惨な最期を迎えた人を、少なからず見ました。 望ましい最期を迎える人と、好ましくない亡くなり方をする人のちがいは、どこにあるのでしょう。 *本記事は、久坂部羊『人はどう死ぬのか』(講談社現代新書)を抜粋、編集したものです。 ----------
「ピンピンコロリ」を実践するには
「ピンピンコロリ(PPK)」とは、ピンピンと元気に老いて、死ぬときは寝つかずコロリと逝こうという意味の標語です。 長寿県として知られる長野県が発祥ですが、要は寝たきりや介護の期間を短くしようということです。つまり、平均寿命と健康寿命(自立して生活できる期間)の差をなくす運動です(参考までに言うと、「平均寿命」は今年生まれた赤ん坊の推定余命のことで、今生きている人の寿命の平均ではありません)。 たしかにそれが実現できれば、高齢者の医療費は抑えられ、介護負担も軽減できるでしょう。私は『破裂』という小説を書くとき、このアイデアを作中に盛り込むために、参考になる本を何冊か読みました。しかし、書いてあるのは「ピンピン元気に老いる秘訣」みたいなものばかりで、私が知りたかった「コロリと逝く方法」については、どの本も触れていませんでした。まるで、ピンピンと元気に老いれば、自動的にコロリと死ねるかのような書きようです。それは片手落ちだし、ズルイことのように感じました。 冷静に考えればすぐにわかることですが、若いときから健康に注意して、節制しながら生活していれば、内臓が丈夫な分、コロリとは死ねません。コロリと死ぬのは、若いうちから不摂生をしてきた人です。ヘビースモーカーで、毎晩酒を飲み、カロリーオーバーで肥満し、ストレスいっぱいの生活で、睡眠不足、運動不足で、血液検査は異常値ばかりという人が、心筋塞や脳卒中でコロリと死ぬのです(不幸にして死ねなかった場合は、麻痺が残ったりして不如意な生活を強いられますが)。 若いときから健康増進に努めてきた人はなかなか死なず、ピンピンダラダラ・ヨロヨロヘトヘトになってしまいます。医療になどかかったら、それこそ簡単には死なせてもらえませんから、さまざまな老いの苦しみを抱えたまま、人生の最後をすごすことになります。それでも死ぬよりましと思う人もいるでしょうが、そう判断するのは個人の自由です。 ただ、私は高齢者医療の現場の印象として、死ぬよりましと、死んだほうがましの差は、それほどないと感じています。